アコイの村
「ああノビルさん。今年も来てくれたのかい」
「ああ。しばらくは荷運びの依頼だろう」
「そうなんだよ。この村は依頼料も少ないのに、毎年ありがとうね」
夫を亡くした老婆。
彼女の夫はこのアコイの村の村長だった。
今はこの老婆が村長代理をしている。
村長になる息子は近くの町に出稼ぎだ。
今のアコイ村には若者がいない。
老人と子どものみだ。
老婆の夫の村長。
他にも村の半数が二年前に亡くなった。
隣村は廃村。
村人は全員死亡。
二年前、アコイの村の隣村が水の精霊を激しく怒らせた。
精霊という人外は、人の事情など知ったこっちゃない。
大暴れだ。
隣村は木の器の中に放り込まれたように巨大な水球に包まれた。
今も、隣村は巨大な水球に包まれている。
ゆらゆらと、隣村の村人たちは今も水球の中に漂っている。
老人から赤子まで、全員水死体だ。
水球に手を出せば引きずり込まれる。
アコイの村の村長たちは引きずり込まれた。
今は隣村の村人たちと一緒に水球の中。
助けようとした、だけで。
帰りが遅いと心配をして、隣村を見に行ったアコイの村の村人たちは、全員あの水球に手を出したのだと思う。
水球に手を出せば引きずり込まれると、そう気づいたときには――。
せめて、遺体だけでも返して欲しいが精霊に人の事情など関係がない。
水球は二年経ってもそのままだ。
皮肉なのは水球の水は綺麗なままで、遺体は腐ってもいないこと。
水球の中では誰もが今も、苦悶の表情だ。
赤子も幼い子どもも少年も青年も年寄りも、どこにも安らかな死に顔なんてない。
おれは三流の冒険者だ。