悪役王子は騙されない
「偽勇者よ! 貴様の勇者の証を剥奪するッ! 平民の貴様に聖剣を持つ資格はないッ! だいたい貴様のそのパーティは何だ! 平民! 平民! 平民ではないか! そんな貴様が魔王討伐など成せるわけがないッ! さあ、その聖剣を渡せッ!」
「……僕の、聖剣を…………」
「貴様の聖剣ではないッ! 女神様は間違われたのだッ! 貴様はその聖剣の運び役に過ぎんッ! 国王陛下は騙せても私の目は騙せないぞッ! この偽勇者めッ!」
「まっ、待ってください! 勇者様は偽者などではたぶんありませんッ! 女神様がたぶん選んだ勇者様ですッ!」
「そうよ! 勇者が今までどれだけ苦労したと思ってるの! こんなに苦労してるんだからきっと勇者は勇者なのよッ!」
「そうですよッ! 勇者は勇者! 偽者なんかじゃありませんよきっとッ!」
「黙れ勇者特権に群がる平民どもがッ! そいつが本当に本物の勇者だと思うのならこいつが勇者だとはっきり言い切らないかッ!」
「「「…………」」」
「み、みんな……?」
「黙るだろう? 貴様らとてそいつが本当に勇者だとは信じていないのだろうッ!」
「そっそんなことは今関係ないでしょう! 聖剣は女神様が『あっ』と言いながら勇者様に授けられました!」
「女神様のその『あっ』こそが聖剣を授ける者を間違われた証だッ!」
「なっ、なんてことを言うのですか! 女神様が聖剣を授ける者を間違うなんて普通はあり得ません!」
「そっそうだ」
「うんうん」
「みんな……!」
(ごめんなさい……)
「大丈夫ですよきっと勇者様。女神様が間違うわけありません。あなたが女神様に聖剣を授けられた唯一無二の尊い勇者様なのです! …………たぶん」
「そこの嘘をつけない平民女神官。その偽勇者の名は『きっと』ではないだろう? そして最後にボソリと何と言った?」
「やめてくださいッ!」
「横暴だよッ!」
「そうですよッ! 酷いッ! 酷いですッ!」
「何がだ? 何が横暴で酷い? 国王陛下は誤魔化せても私を誤魔化せると思うなッ!」
「「「きゃああああああッ!」」」
「みっみんなッ!」
「演技はいい。聖剣を渡せ」
「くっ!」
「くっじゃない」
「あっ」
「ど、泥棒ーッ! 聖剣泥棒――ッ!」
「聖剣を返せッ!」
「聖剣泥棒だなんて! あなたはそこまで堕ちたんですかッ!」
「何とでも言え。女神様は選んでいない」
(はい……)