理想のアイドル
「もう駄目だ」
俺の心はボッキリと折れた。
『アイドルは引退します!』
空我るうなちゃん。
俺が育てた俺のアイドル。
週刊誌に恋愛をすっぱ抜かれるアイドルが多い中、空我るうなちゃんだけは違った。
清く正しく清純派だった俺のアイドル。
俺が十年推してきたアイドル。
『るうなさん! 指輪を見せてください』
『はい』
パシャパシャとたかれるフラッシュ。
はにかむ俺のるうなちゃん。
薬指! 指輪!
俺の心は死んだ。
噂とかひとつもなかったじゃん!
ああああああああ――っ! ああッ! ああッ! 俺の心は何度も死んだ。
知りたくなかった。どうせなら結婚報告もしないで欲しかった。
俺の心は繊細なんですよ。
るうなちゃんの相手は一般人。
一般人!? パンピー!?
あああああああ――ッ! 金持ちかチクショウ!
『農家の方なので、わたしも手伝っていきたいと思ってます』
農家!?
俺もッ! 俺も農家ッ!
あああああああ――ッ! いやああああああいやああああああ――っ!
「としっピー豊作さん!」
あああ……幻聴だ……。
幻聴が聞こえてきた……。
長年、無理してでもるうなちゃんの応援に通ってたのに、会えることももうなく、彼女は結婚……。
「十四郎! 彼女さんだよ!」
「……また見合い? はっ、俺はもう…………」
「としっピー豊作さん?」
「――…………る?」
「いつもプロポーズありがとうございます!」
「え?」
プロポーズ?
うちわやファンレターに冗談だけど冗談じゃなく書いてたアレ?
「ストーカーでしょとか周りに止められたんですけど、としっピー豊作さん昔からわたしのこと推してくれてたし」
「えっ? はい」
「今回はその、お手紙にゆ、ゆゆ指輪まで入ってたから、わっわたしも覚悟を決めました!」
「えっ」
「十四郎あんた結婚出来るのかい!?」
「ちょっと黙れ。出て行って母さん」
あ、指輪。指輪俺が貢いだやつううううう!
「いっ、いやいや駄目! るうなちゃんは推しだから! ノータッチだから!」
「え? ……プロ、ポーズ……うちわでもいつも、何度も……」
「嘘じゃないけど本気にしないで! 違う! 違わないけど違うから!」
とか言いながら俺は結婚した。
これからは俺、真横で空我るうなちゃんの旦那面して生きます。