ウサ男とカメ子
つい最近、愚痴っているばかりの若いうさぎがおりました。
「ったくよー。このあいだまで『テスト100点だったの! ママのウサ男くん天才!』とか言ってたくせによー」
若いうさぎ、ウサ男は公園のベンチの上で仰向けになり愚痴っておりました。
「このあいだまで『ウサ男はパパよりも優秀じゃないか』とか言ってたくせによー」
やってられねえよ、ウサ男はぶつぶつ呟きます。
「1歳になったとたん家から追い出しやがってよおー」
ぐすん、とウサ男は鼻を鳴らしました。
うさぎは1歳で成体なのです。
いつまでも親元にはいられないのです。
「なんだよ部長のやつ。オレのほうが頑張って企画考えたのに、ゴマすりばっかのウサ二郎ばっかり褒めやがってよお」
出した企画が採用されたのもウサ二郎でした。
「あんな雑な企画よりオレの企画のほうが……」
ウサ男の目には涙が溜まっていました。
「ウサ二郎なんか、いつも赤点ギリギリだった馬鹿なのによう……企画の内容を見やがれってんだ……見りゃわかるだろうがよお……内容よりゴマすり野郎なのおかしいだろうがよ」
ウサ男はこれまで成績優秀で褒められて生きてました。
けれど、社会に出たら褒められて認められるのは要領がいいうさぎです。
会社の企画に採点はありません。
上司が気に入るか、それだけのようにウサ男には見えました。
3兄弟の次男で要領がいいウサ二郎は期待の若うさぎ。
ウサ男は「もうちょっと頑張れよ」といつも言われる若うさぎ。
入社から3ヶ月。同期の2匹にはあきらかに差がついてました。
「オレが出した企画本当に読んだのかよ? ウサ二郎の企画選ぶなんて部長も馬鹿だろ」
「ウサ男くん? やっぱりウサ男くんだ! こんなところでどうしたの?」
「カメ子……」
同級生だったカメ子がそこにいました。
「なっなんでもねえよっ」
「そう? ならよかった。はい」
「何だよこれ」
「わたしとウサ二郎くん結婚するんだ」
結婚式の招待状だよ、カメ子は言いました。
「……なんでウサ二郎と?」
「え? だってウサ二郎くん、お手紙もデートもマメだし」
「はっ。結局コミュ力かよ」
「……それはそうでしょ」
カメ子は去って行きました。
その後「ウサ男くんますます感じ悪くなってたよ」とカメ子が言うとウサ二郎は笑うだけでした。