表島太郎10歳
強い陽射しの中、ザザーンザザーンと白い波が押し寄せる砂浜で、
「オラァ! 顔引っ込めてんじゃねえよ!」
「出てこい亀野郎!」
ぼくは虐められてる一匹の亀に出会った。
「いいのか? オレが顔を出しても? 後悔することになるぞ」
亀は虐められて、なかったのかもしれない。
まるで武人のような低く重い声だ。
亀の甲羅を連続で蹴っていたふたりの足が止まった。顔を見合わせてる。
「おうおう。さっさとその顔出してもらおうじゃねえか亀さんよ」
ドンッ! と男のひとりが強く甲羅を踏んだ。もうひとりはニヤニヤしてる。
「女にてめえの借金押しつけて逃げるようなクズはどんなお顔してるスかねえ」
ん? とぼくは思った。
「適当なこと言ってんじゃねえぞ」
おお。
亀の声が怒ってる。
やっぱり一方的に蹴られてる亀ではなく、この蹴ってるふたりが悪いヤツなんだろう。
「あいつが自分で払うっていったんだ」
「ああ? なーにが自分で払うだよ。あの女の借金じゃねえ! てめえの借金だろうがッ!」
ぼくは何も見なかったことにしたし、何も聞かなかったことにしたし、悪いヤツについても考えるのをやめた。
早く家に帰ろう。
ぼくはいい子だから――。