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雨の日の小さな遊園地

作者: 瀬嵐しるん
掲載日:2023/06/22


山のふもとに、小さな町がありました。


小さな町の外れには、小さな遊園地があります。


お休みの日には、小さな子供を連れて家族でピクニック。

そういう時にぴったりな、小さな遊園地です。


小さな遊園地には、大きなジェットコースターやブンブン走るゴーカートはありません。

小さな子供が乗っても怖くない、小さな観覧車や小さなメリーゴーランドがあるだけです。



今日は雨降り。


雨の日には遊具はお休みです。

小さな観覧車も小さなメリーゴーランドも、薄いお布団のようなカバーをかけられて、じっとしているのです。


元気な子供たちも、今日は誰も遊びに来ません。

それでも門は開いていて、受付には園長さんが座っています。



午前十時ごろ、最初のお客さんが来ました。

お歳を召したご婦人と、付き添いをする娘さんです。

大きな傘に二人で入り、ゆっくりゆっくり歩いてきました。


「こんにちは、園長先生」


娘さんが挨拶をします。


「こんにちは! 先生は余計だけどね」


園長さんは笑います。


「あら、いけない。つい癖で」


娘さんも笑います。


遊園地の園長さんは、昔は保育園の園長先生だったのです。


「こんにちは。園長先生。

今日もよろしくお願いします」


「はい、こんにちは。

ようこそいらしゃいました」


年配のご婦人も挨拶をします。


「雨なので滑りやすい場所もあります。

気を付けてね」


「ありがとうございます」


二人の女性は連れ立って、ゆっくり歩いていきました。



遊園地の中央には、大きくて丈夫なテントが張られています。

晴れの日は日除け、雨の日は雨避けになる便利なテントです。


二人の女性は、テントの中のベンチに腰掛けると、ゆっくりと周りを見回しました。


「今日はメリーゴーランドはお休みなのね」


「そうね、今日は一日、お昼寝することにしたのね」


「観覧車もお休みなのね」


「たまにはじっとしていたい日もあるのでしょうね」


それから、水筒に入れてきた温かいお茶をゆっくり飲んで一休み。

そしてまた、ゆっくりと門に向かいます。


「園長先生、さようなら!」


「気を付けて帰るんだよ」


「ありがとうございます。また明日」


「はい、また明日!」


明日はきっと、今度という意味です。

でももう、園長さんは注意しません。



今日はもう、お客さんは来ないかもしれない。

そう思っていると、軽トラックが駐車場に入ってきました。


「園長さん、こんにちは」


「こんにちは」


園内の植物の手入れをお願いしている、花屋さんのご主人です。


「今日はお客さんも少ないだろうから、少し花と木の手入れをしていきます」


「よろしくお願いします」


「それから、これは余りものだけど」


「いつもありがとう」


園長さんは、大きく開いた花の束を受け取りました。

花屋さんは、時々こうしてお花を持ってきてくれるのです。


咲ききった花たちは、日持ちはしません。

けれども、しばらくの間、受付に飾られて、やってくる人たちの目を楽しませます。



午後からは雨も上がりました。

でも、遊具たちはずっと眠ったまま。

花屋さんが帰った後も、お客さんは誰も来なかったのです。


門を閉めようと園長さんが受付から出ると、小さな女の子が受付のカウンターをじっと見つめていました。

あまりに小さくて、建物の中からは見えなかったのです。


「この、お花が欲しいのかな?」


女の子はこくりと頷きます。


「全部持って行く?」


女の子は大きく首を横に振ります。

確かに、女の子の両腕には余るほどの花束です。


「何本あげようか?」


女の子は、両手を前に出して、十本の指を広げました。


「十本だね、ちょっと待っててね」


園長さんは建物の中に戻り、花瓶から十本の花を選ぶと新聞紙で包みました。


「はい、どうぞ」


女の子は両手でしっかりと受け取ると、ぺこぺことお辞儀をして踵を返しました。

そして、門の外ではなく、遊園地の奥、山の方へと歩いていきます。


「また、おいで」


女の子は園長さんに見送られながら帰って行きます。

その後ろ姿には、フサフサの狸の尻尾が機嫌良さげに揺れていました。



挿絵(By みてみん)



イラストはコロン様からの頂き物です。

後ろリボンが可愛い!

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