表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雨の日の小さな遊園地

作者: 瀬嵐しるん


山のふもとに、小さな町がありました。


小さな町の外れには、小さな遊園地があります。


お休みの日には、小さな子供を連れて家族でピクニック。

そういう時にぴったりな、小さな遊園地です。


小さな遊園地には、大きなジェットコースターやブンブン走るゴーカートはありません。

小さな子供が乗っても怖くない、小さな観覧車や小さなメリーゴーランドがあるだけです。



今日は雨降り。


雨の日には遊具はお休みです。

小さな観覧車も小さなメリーゴーランドも、薄いお布団のようなカバーをかけられて、じっとしているのです。


元気な子供たちも、今日は誰も遊びに来ません。

それでも門は開いていて、受付には園長さんが座っています。



午前十時ごろ、最初のお客さんが来ました。

お歳を召したご婦人と、付き添いをする娘さんです。

大きな傘に二人で入り、ゆっくりゆっくり歩いてきました。


「こんにちは、園長先生」


娘さんが挨拶をします。


「こんにちは! 先生は余計だけどね」


園長さんは笑います。


「あら、いけない。つい癖で」


娘さんも笑います。


遊園地の園長さんは、昔は保育園の園長先生だったのです。


「こんにちは。園長先生。

今日もよろしくお願いします」


「はい、こんにちは。

ようこそいらしゃいました」


年配のご婦人も挨拶をします。


「雨なので滑りやすい場所もあります。

気を付けてね」


「ありがとうございます」


二人の女性は連れ立って、ゆっくり歩いていきました。



遊園地の中央には、大きくて丈夫なテントが張られています。

晴れの日は日除け、雨の日は雨避けになる便利なテントです。


二人の女性は、テントの中のベンチに腰掛けると、ゆっくりと周りを見回しました。


「今日はメリーゴーランドはお休みなのね」


「そうね、今日は一日、お昼寝することにしたのね」


「観覧車もお休みなのね」


「たまにはじっとしていたい日もあるのでしょうね」


それから、水筒に入れてきた温かいお茶をゆっくり飲んで一休み。

そしてまた、ゆっくりと門に向かいます。


「園長先生、さようなら!」


「気を付けて帰るんだよ」


「ありがとうございます。また明日」


「はい、また明日!」


明日はきっと、今度という意味です。

でももう、園長さんは注意しません。



今日はもう、お客さんは来ないかもしれない。

そう思っていると、軽トラックが駐車場に入ってきました。


「園長さん、こんにちは」


「こんにちは」


園内の植物の手入れをお願いしている、花屋さんのご主人です。


「今日はお客さんも少ないだろうから、少し花と木の手入れをしていきます」


「よろしくお願いします」


「それから、これは余りものだけど」


「いつもありがとう」


園長さんは、大きく開いた花の束を受け取りました。

花屋さんは、時々こうしてお花を持ってきてくれるのです。


咲ききった花たちは、日持ちはしません。

けれども、しばらくの間、受付に飾られて、やってくる人たちの目を楽しませます。



午後からは雨も上がりました。

でも、遊具たちはずっと眠ったまま。

花屋さんが帰った後も、お客さんは誰も来なかったのです。


門を閉めようと園長さんが受付から出ると、小さな女の子が受付のカウンターをじっと見つめていました。

あまりに小さくて、建物の中からは見えなかったのです。


「この、お花が欲しいのかな?」


女の子はこくりと頷きます。


「全部持って行く?」


女の子は大きく首を横に振ります。

確かに、女の子の両腕には余るほどの花束です。


「何本あげようか?」


女の子は、両手を前に出して、十本の指を広げました。


「十本だね、ちょっと待っててね」


園長さんは建物の中に戻り、花瓶から十本の花を選ぶと新聞紙で包みました。


「はい、どうぞ」


女の子は両手でしっかりと受け取ると、ぺこぺことお辞儀をして踵を返しました。

そして、門の外ではなく、遊園地の奥、山の方へと歩いていきます。


「また、おいで」


女の子は園長さんに見送られながら帰って行きます。

その後ろ姿には、フサフサの狸の尻尾が機嫌良さげに揺れていました。



挿絵(By みてみん)



イラストはコロン様からの頂き物です。

後ろリボンが可愛い!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ