第7話 家族の再会
『王国軍3万のうち、実は死者の数は1000人に満たなかった』
意外だった。
ビネ沼の戦いは、王国軍の歴史的敗退と言われる。少なくとも半数は戦死したという説が現在の主流だった。
それでも、闘将アビスと魔女アイスバレット、この2人だけで1000の命を屠ったという事実には戦慄を覚えずにはいられないが。
『まぁ、記録には残せんだろう。栄光ある金剛の騎士団が背中に傷を負って逃げ帰って来たのだから』
だが、1000人とは厳密な意味における死者の数にすぎなかった。
生き残ったとしても、手首を失った者は魔術士としての生命を絶たれた。地獄を見た者は精神を病み、絶望を植え付けられた者はもう2度と戦場には立てなかった。
『それだけ、『魔女の咆吼』は絶望的だった……。私はあの声に、あの子の10年の絶望を見た気がした。魔晶を目に埋め込んで少ない魔力を補い、より速く、より遠く、より正確にと、あの子は最下級の水術を磨き続けていたのだ……』
「絶望ですか?」
私にはそうは思えなかった。魔女アイスバレットにとって、氷丸は愛する者たちを守る希望だったのではないか。
だが、私がそう述べると、亡霊はかぶりを振った。
『希望で、人を何百人も殺せんよ』
◇ ◇ ◇
ビネ沼の戦いで、魔王軍が王国軍を打ち負かした事実は、セフィラ半島を震撼させた。
最初に動いたのは、独立した商人ギルドによる都市国家ホートだった。彼らは国家としての名よりも、商人としての実を選び、都市国家の解体と魔王軍への帰順を提案した。
魔王ゼロクは提案を容れた。ホートの商人ギルドには引き続き自治権を与え、またこの機会に領内全域の関税を撤廃した。商人たちは歴史上かつてない自由に狂喜した。
一方で、ゼロクは商人たちが私兵を持つことを禁じた。行商の護衛には、魔王が兵を貸し与えた。これが事実上の関税と言えなくもなかったが、関税よりもはるかに安上がりだった。
こうして都市国家ホートが魔王軍に取り込まれ、セフィラ半島はついに東西で2国が並び立つ状態となった。
国土の広さで言えば、セフィラ王国の領土は魔王領の約2倍と圧倒していた。だが、国力はほぼ拮抗していた。しかも、魔王領がいまだ発展の途上にあるのに対し、王国は衰退を続けていた。
「和平ですか」
ヴァイオラの言葉に、彼女の父でありウォルモンド家当主であるフィリップ・ジェイムズ・ウォルモンドは「仕方あるまい」と厳かに頷いた。
今、セフィラ王国には2つの派閥ができていた。和平派と侵攻派である。
魔王軍討つべしと唱えるのは、残存する騎士団、紅玉および翠玉の騎士団だった。
彼らの戦う理由は敗北続きの騎士団の面子と、ヴァイオラ失脚後の後釜狙いなのは明白だった。
ここで和平派に与するあたり、フィリップは決して暗愚な当主ではなかった。
「魔王軍と戦ったところで、名門ウォルモンド家の誇る天才が勝てなかった相手に、他の誰が勝てると言うのだ」
痛烈な嫌味だったが、ヴァイオラの心には響かなかった。天才としての矜持など、すでに打ち砕かれている。
千の魔術に精通し、自身も数多くの魔術を編み出してきた。そんな自分が、誰も見向きもしない最下級の魔術に手も足も出なかったのだ。
馬鹿の一つ覚えの前に敗れ去った才能など、意味も価値もない。
3万の軍勢をネズミの群れのように追い散らした『魔女の咆吼』。そのタネが超高速、超精度で連射される最下級水魔術であるという事実は、ヴァイオラによってすでに報告されていた。
だが、国王と国政を担う有力貴族たちはこの事実を隠蔽した。
栄光ある王国騎士団が、そんなものの前に敗れ去ったなど、あってはならなかった。
それでも、生き延びた2万数千の兵たちの中には、ほんのわずかながら事実を看破した者がいた。
そして噂は瞬く間に広がった。
その事実に人々は驚き、やがてかの魔女を圧倒的な畏怖とわずかな侮蔑を込めて『最下級の魔女』と呼ぶようになった。
一方、ヴァイオラは「最下級魔術に敗れ、地を這って逃げた天才」として物笑いの種になり、そんな彼女をもてはやしていたウォルモンド侯爵家の権威も失墜していた。
「とんだ生き恥だ。我が家の長男の代わりにお前が戦死すればまだ面目が立ったというのに」
結局、オリヴァーは戦場から戻って来なかった。彼は手首を失って沼に沈んだ。
彼は気付いていただろうか? 自分を殺した相手が、かつてこの家で虐げていた実の姉だということを。
「お父様」
虚しい風が吹き荒れていた。この屋敷にも、ヴァイオラの心の中にも。
「ウォルモンド家の名誉を回復するために、我々はもう1度恥をかかねばなりません」
「これ以上の恥があってたまるか」
「あるのです。お父様。この世は我々が思っている以上に過酷なのです。覚えていますか? この家にはもう1人家族がいたことを」
父親はしばらく沈黙し、やがて「いたな、そんなのも」と呟いた。
「『最下級の魔女』は、リーリウムです。私は出来損ないの妹に敗れたのですよ、お父様」
驚愕の目がヴァイオラに注がれた。
「私は……育てる娘を間違えたのか……」
もう、ヴァイオラに怒る気力は無かった。それどころか、嘆く気にも呆れる気にすらなれなかった。ひたすら、疲れと虚無が彼女の心を支配していた。
「過去の後悔よりも、今の心配をしてください。王国の名誉に泥を塗った魔女の正体が知れたら……」
「それは困る! すでにダリアと王太子殿下との婚約にも暗雲が垂れ込めているというのに!」
「情報によれば、リーリウムは魔王の片腕であると共に、相思相愛の間柄であることは公然の秘密であるとのこと。魔王がリーリウムの出自を知ったら、和平にも影響がでるやもしれません」
「……で、私にどうしろと?」
そこには、尊大な侯爵家当主の仮面が剥がれ、地位はく奪に怯える小さな男の姿があった。
「まずは非公式にあの子に会いましょう。過去の非礼を詫びて家族の縁を戻し、ゆくゆくは和平交渉の架け橋になってもらうのです」
「むぅ……ウォルモンド家が和平を牽引すれば、敗戦の恥をそそぐことができるか」
かくして、密偵が魔王領へと走った。
一方、アイスバレット個人に届けられたはずの密書は、あっさり魔王軍幹部に知らされていた。彼らの間に秘密らしい秘密は存在せず、この点、彼らはいつまで経っても少年時代のろくでなし集団のままだった。
「……」
魔王ゼロクはむっつりと沈黙している。
「無視してもよろしいのでは?」
現時点では政略的に何の意味もないと、ネハンは進言した。
将来的には和平交渉のための人脈作りであろうことは察していたが、今はアイスバレットの気持ちを尊重したいという思いから黙っていた。
「罠じゃねぇの?」
アビスの疑問に、その可能性はもちろんある、とネハンは答えた。
「遺品、届けなくちゃ……」
アイスバレットはそれだけをぽつりとつぶやいた。
この密書で、彼女は初めて自分が実の弟を手にかけたことを知ったのだった。
他の幹部たちが部屋を出てゆく。
ステュクスだけは出ていく時に『姉……』と声をかけて彼女をそっと抱きしめた。いつの間にか、ステュクスの背丈はアイスバレットよりも遥かに高くなっていた。
ステュクスはその後、閉ざされた扉の向こうでアイスバレットがすすり泣く声を聞いている。魔王は相変わらず無言だったが、きっと彼女に勇気を与えたことだろうと推察されている。
アイスバレットが実に十数年ぶりに生家を訪れたのは、それから1か月後のことだった。
魔王領と王国の国境にある中立地帯で、アイスバレットはウォルモンド家が用意した迎えの馬車に乗り込んだ。
「よく来てくれた」
ヴァイオラが自らアイスバレットを迎えた。
「ね……さま……」
今にも消え入りそうな声だった。
彼女の側には、うるるるる……と喉を鳴らす灰色の獣がいた。
「あの時は狼だと思っていたよ」
それが、ヴァイオラの精一杯の軽口だった。
10年越しに出会う妹の姿に、衝撃を隠しきれなかった。
薄鈍色の髪や青白い肌は相変わらずだが、あの頃よりもずっと生気を感じた。
美しく成長したその姿からは、彼女が愛されているのが伝わって来た。
だがそれだけに、左目に何本も突き刺さった紫色の魔晶の柱がどうしても目を引いた。
――痛くないのか?
そう問おうとして、だがあまりに愚問に思えて、ヴァイオラは言葉を引っ込めた。
馬車に乗り込もうとしたとき、アイスバレットは少し困ったように躊躇した。彼女の横をすり抜け犬が先に乗り込むと彼女の服の裾を咥えて引っ張った。
まるで犬にエスコートされているようだった。
その後、馬車がウォルモンド家の屋敷に着くまでの数時間、2人はついにひと言も言葉を交わせずにいた。
「憶えているか? この屋敷を」
ウォルモンド家の門を前にして、アイスバレットは小さく頷いた。
「そうか……」
よかった、とは言えなかった。ここは彼女にとって、辛い思い出しかない。
「お帰りなさいませ、リーリウム様。お久しゅうございます」
「あ……はい……」
執事の挨拶に戸惑うアイスバレット。ヴァイオラはこの老執事の白々しい挨拶に内心で舌打ちをした。
「あの、申し訳ございません。お屋敷に犬は……」
「えっ……」
アイスバレットの顔に心細げな表情が浮かんだ。母親からはぐれてしまった幼子のような顔だった。
「……」
助けを求めるような目でヴァイオラを見上げる。
妹にこんな顔をされるのは2度目だった。
あの時は、助けなかった。だから今を後悔している。
「かまわない。一緒においで」
アイスバレットはほっとしたように頷いた。「そういえば、彼の名前を聞いていなかったな」と問いかけると、小さな声で「ウルル」と答えた。
「いい名だ」
と言うと、アイスバレットはまるで自分が褒められたように、初めて少女らしい笑みを浮かべた。
「お部屋にご案内いたします」
執事に先導されて屋敷の中を行くアイスバレットは、まるで初めての場所を訪れたかのようにキョロキョロとあたりを見回していた。
「馬車に揺られて疲れたろう。少しの間休んでくれ。何かあったら鈴を鳴らせばメイドが来てくれる。遠慮はいらない」
こくんと頷くアイスバレットを客間に残し、ヴァイオラは居並ぶ使用人たちに「失礼のないように」と釘を刺してから自室に引き上げた。
「お姉様」
自室の前に、ダリアが立っていた。
「文句は聞きたくない」
「いいえ、言わせていただきます」
王太子の許嫁となってから、彼女は姉に反抗的な態度を示すことが多くなった。
「私はあの者に礼を尽くすつもりはありません。あの女はオリヴァーの仇です! 身内の仇も討たず、あまつさえその仇に媚びへつらうなんて! お姉様はそれでも騎士ですか!?」
「仇討ちの精神は騎士道には含まれていない」
「これでは、オリヴァーがあまりに憐れです!」
「彼らは沼に沈んだオリヴァーの遺体を探し出し、丁重に葬ってくれたそうだ。遺品も持ってきてくれた。だが、我々は彼らを蛮族と呼び、死体を辱めることも平気で行ってきた」
「だから何だと言うのですか!?」
「ダリア、頼むから」
「怖いのですか、あの魔女が」
ヴァイオラの前に、あの光景がよみがえる。
塔の上に立ち、髪とローブを風に靡かせる魔女。
立ち上る血の赤い霧。
逃げ惑う兵士たちの悲鳴、断末魔の叫び。
そして、魔女の咆吼。
「ッ!」
思わず、ヴァイオラは耳を塞いだ。
「怖い。そうだな、私はあの子を恐れている。私には解るんだ。私はもう、あの子の魔術には決して敵わないと……」
「まあ、お姉様は今まで、他人に関心を持ったことがありませんでしたものね。希代の天才なお姉様。私やオリヴァーのことも、猿の子か何かのように思っていたのでしょう」
「何が言いたい?」
「私はよく覚えています。調理場の隅に座り込んでいたみすぼらしい女。姉だなんて思ったことは1度もない。だってそうでしょう? お父様もお母様も、そしてお姉様も、あの女をまるでいないもののように扱っていた! お姉様、あれは人間ではありません! 私たちの言いなりになって、土を食べるような下女です。あんな魔力不能者の、いったい何を恐れることがあるのですか!」
「10年前とはもう、何もかもが違うんだよダリア」
吐き気がした。
もう、何もしゃべる気になれなかった。
「今の彼女は、隣国の王の側近だ。無礼な真似は決してするな。戦争になったら……」
「敗北とは恐ろしいものですね。あのお姉様がここまで腑抜けてしまうんですから」
ダリアの目から逃げるように自室に入り、ヴァイオラはベッドに倒れ込んだ。
「驕り高ぶっていたのは私か……」
魔術の研究にかまけて、周囲の人々の気持ちなど考えたこともなかった。
誰も彼もが自分よりも愚かに見えて、話しをしてもストレスが溜まるばかりで、関わるのが億劫だった。
誰も自分を理解してくれないのに、どうして自分が皆を理解しなければならないのか、とも思っていた。
「そのせいで、私は……、あの子が傷ついていることにも気付かずに……」
ダリアの言葉が痛い。
もし、幼き日のリーリウムが普通に家族として認められていたら。彼女が家族に認められたい一心で血の涙を流しながら術の研鑚をしていなかったら。
自分は今の彼女にここまで関心を抱いていただろうか?
「過去の後悔よりも、これからのことだな」
懐に忍ばせている、木の葉を覆ったクリスタルを指先でそっとなぞり、そう自分に言い聞かせた。
王国と魔王領が和平を結べば、この先、姉妹として話をする機会はいくらでもできるだろう。
そして、家族の夕食が始まった。
「久しぶりだな、リーリウム」
当主フィリップはぎこちない笑みを浮かべて、長年存在を無視していた娘を抱きしめた。
「リーリウム」
母も同様だった。
「お久しぶりです、リーリウムお姉様」
口だけの微笑みを浮かべながら、ダリアは貴族風のお辞儀をして見せた。
「……はい」
青いシンプルなディナードレスを纏ったアイスバレットは、所在無げに突っ立っていた。
「さあ、座って」
そう言われたアイスバレットが座ったのは食卓の椅子ではなく、部屋の隅っこの床の上だった。体が自然に動いたように、違和感のない所作だった。
「リーリウム……」
ヴァイオラは目の前が暗くなるのを感じた。
それは嫌味でも何でもなく、むしろ彼女なりに昔を思い出してウォルモンド家に気を遣っている結果のように思えた。
「こっちだ。私の隣に」
恐る恐るテーブルに着く。そこには魔王軍の幹部としての威厳など微塵もなく、彼女の心は完全にありし日の虐げられた少女に戻っていた。
(私は今、この子の心をどうしようもなく傷つけているのではないか?)
そんな不安が鎌首をもたげる。それを振り払うように、ヴァイオラはあえて陽気に振舞った。
「遠慮せずに食べてくれ」
「……」
だが、アイスバレットはうつむいたまま金縛りにあったように動かない。
「……ごめんなさい」
不意に、彼女は謝った。
「え?」
「私、わからないんです。食べ方が……」
驚くべきことに、彼女はナイフとフォークの使い方すら知らなかった。
「細かいことは気にするな。食べたいように食べていいんだ」
その言葉に少しだけ顔を緩め、彼女は指先でテーブルの上を探った。
「リーリウム? ……もしかして、目が?」
「……」
ようやく、ヴァイオラは彼女が常に犬を連れていた理由に気が付いた。
騎士団でもまれに報告される症例だった。
魔力保有量の少ない者が魔力を枯渇させるほど術を酷使し続けていると、五感のいずれかに徐々に影響を及ぼすことがある。
(だが、お前がそうなるにはまだ若い。若すぎるだろう)
同時に、沼地の戦いにおいて彼女が魔法陣を狙い撃ちした理由と、無差別攻撃を行った理由がわかった気がした。
おそらく彼女は、視力を失った代わりに左目に埋め込まれた魔晶の力で魔力を感知できるようになったのだろう。実際、王国でもその方面の研究が行われている。
思えば、アビスのあのわざとらしい挑発も、騎士たちに魔術を使わせるための囮だったのではないか。
やがてヴァイオラが魔術の使用を禁じたため、敵を感知できなくなったアイスバレットは無差別攻撃に切り替えたのだ。
「……もう、やめないか?」
「?」
「私はこれまで、人を魔力でしか見ていなかった。愚かだった。そのせいで、私はお前の心を深く傷つけてしまった。調理場の隅っこに書かれていた文字を見たよ。『みんなで、ごはんを』と書いてあったな。そんなささやかな夢を、私は10年も奪ってしまった」
アイスバレットはゆっくりと首を振った。
「代わりに、みんなに会えました」
彼女の言うみんなとは、ウォルモンド家の者たちではないことは明らかだった。
「私たちが間違っていた。お前のことを、まるでそこにいないかのように扱ってしまった。そのせいで、私たちは今もお前を苦しめている……」
アイスバレットが激しく首を振る。ヴァイオラは構わず続けた。
「聞こえてくるんだ。魔力しか見ていなかった私には聞こえてしまうんだ。『魔女の咆吼』、あれはお前の泣き声だ。「私はこんなことができる」「私は役に立つ」「だから私を見て。私を捨てないで」……」
「……」
「私には解るんだ。この10年、お前は氷丸を磨き続けて来た。より速く、より遠くへ、より正確に。だが、もうじゅうぶんだ。今やどんな魔術士もお前に勝つことはできない。私ですらもはやお前に追いつくことはできないだろう。だからもう、囚われなくていい。お前は、お前でいるだけで……」
「ありがとう、ございます」
彼女の微笑みを、どう表現するべきだろう?
哀しみと、怒りと、諦めと、安堵を、軽く触れるだけで粉々に壊れてしまう危ういバランスで組み上げたような、そんな笑顔。
幾万の言葉よりも雄弁に「その言葉を10年前に聞きたかった」と語る笑顔。
「でも、私はもう、リーリウムじゃないから。私は、魔女アイスバレットだから」
それは、生家に対する何よりも明確な決別の言葉だった。
「……そうか」
鉛の塊を背負ったような疲労がヴァイオラを襲った。
「1つだけ教えてくれ。魔王は知っているのか? お前が身を削って尽くしていることを」
「はい」
彼女は即答した。
「それが、私なのだと」
止めの言葉だった。
彼女の過去も、苦しみも、そのすべてをありのまま受け入れる。
それが魔王ゼロクと、彼女の今を最後の最後で否定してしまったヴァイオラの違いだった。
懐に忍ばせていた水晶の固い感触。
(もう、遅かったということか)
「わかった。もう家族ごっこはやめにしよう、アイスバレット」
「はい」
「今、王国では和平派と侵攻派が対立している。私は、魔王領と和平を結びたいと考えている」
乾いた空気が食堂を満たす。
ヴァイオラは諦めと共にその空気を受け入れた。