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8.移住初日の締めくくり

 その後、難民達の村の広場では、夜になってもお祭り騒ぎが続けられた。


 これまでに残されていた申し訳程度の食料を使った、アディスとジャネットを歓迎するためのちょっとした宴会である。


 とはいえ貯蓄など殆どなく、収穫した小麦もまだ加工されていないので、彼らの普段の食事よりは多少豪勢といった程度なのだが。


「ささ、どうぞお召し上がりください。お口に合わないかもしれませんが……」

「大事な食料を私なんかの為に……申し訳ないです。それに……」


 ジャネットは聖女らしく謙虚に振る舞いながら、隣で遠慮なく干し肉を噛み切っているアディスを横目を向けた。


 アディスの方は遠慮なく干し肉を齧っていて、集落の食料の乏しさを気に留めている様子はなかった。


「こいつは鹿肉か……残留魔力の具合から察するに、やはり……ん、どうした。せっかく出されたのに食わないのか」

「いえ……皆さん食料に困窮しているのに、こんなに頂いていいものかと思うと……それに、私は大してお役に立てませんでしたし……」


 物憂げに顔を伏せるジャネット。


 アディスはやれやれとばかりに短く息を吐き、ジャネットの背中を強く叩いた。


「ひゃうっ!?」

「下らないことで悩むな。食料は俺がどうとでもするんだから、古い奴は食えなくなる前に消費した方がいいんだ」

「……それは、そうかも……しれませんけど……」

「それに、どうしてもあいつらの役に立ちたいっていうなら、まだまだ今後も機会はあるんだ。今日のところは謝礼の前払いとでも思っておけ」


 ジャネットは複雑そうな表情で広場の中央に視線を移した。


 難民達は老いも若きも笑顔を浮かべ、焚き火を囲んで心の底から喜びに浸っている。


「いえ! やはりお役に立てねば食事も頂けません! 働かざる者食うべからずです!」

「生真面目だなぁ。どこぞの新魔王にも見習ってほしいもんだ」

「皆さん! 私からも贈り物があります! どうぞ役立ててください!」


 丸太を加工した粗末な椅子から立ち上がるや否や、ジャネットは難民達からの視線を浴びながら、両腕を夜空に高く突き上げた。


「天上の神よ! 御身(おんみ)下僕(しもべ)星辰(せいしん)の欠片を施し給え!」


 一瞬、ジャネットの体が魔力とは異なる天力(てんりょく)の光を放つ。


 すると、空から幾つもの拳大の光球が下りてきて、ジャネットの周囲で輪状に並んでゆっくり回転し始めた。


 ジャネットはそのうちの一つを手に取ると、集落の代表者に優しく手渡した。


「これは聖王府でも照明として使われている()()の光球です。きっとこの村では照明用の油にも事欠いているでしょうから、どうぞこちらをお使いください」

「お、おおお……何と勿体ない! 身に余る光栄です!」


 住民達から感謝の声を投げかけられ、ジャネットは照れくさそうに()()()()()いる。


 アディスはその様子を眺めて微かに笑みを浮かべ、それから興味の対象を、ジャネットの周りに浮かぶ天法の光球へと移した。


「地を巡る魔力と似て非なる、空を巡る天力、か。魔界にいると縁のない代物だったが、天法もそう馬鹿にしたものじゃなさそうだな」


 光球は聖女であるジャネットだけでなく、ごく普通の一般人も物理的な宝玉として掴むことができている。


 だからアディスも、内側から光を放つ水晶玉のようなそれを観察しようと思い、何気なく手に取ろうとしたのだが――触れかけた手が一瞬にして炎に包まれてしまった。


「うおわっ!? 熱っつ!」


 慌てて腕を引っ込めて激しく手を振ると、炎は幻のように消え失せて、手には火傷の痕も残されていなかった。


「あっ、魔族(あなた)は触っちゃ駄目ですよ。元の用途は照明ではなく破邪のお守りですから。あんまり火力はないですけど」

「……それを先に言ってくれ」

 読んでいただきありがとうございます。


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