7.仮住まいの建築
難民達が暮らす名もなき集落は、建物も必要最小限の数しか設けられていない。
あばら家同然の住居がいくつかと、ついさっきまで空っぽ同然だった倉庫がいくつか。
しかも倉庫のうち何ヶ所かは壊れたまま遺棄されている有様だ。
あまりにも収穫が少なすぎて、使えなくなった倉庫を放置していても不都合がなかったのだろう。
そこに大量の収穫が押し寄せてきたものだから、無事だった倉庫が満杯になっただけでなく、住居の空きスペースまでも利用して収穫を詰め込んでいる。
「これは……寝泊まりできる場所がないのでは?」
ジャネットは何ヶ所かの住居を見て回り、自分達が使えそうなスペースがないことに気がついたようだった。
「……野宿も経験がないわけではないですが……寒い季節ではありませんし……」
「その必要はないさ。寝心地の良さまでは保証できないけど、ひとまず建物くらいなら今すぐ用意できる。即席でも、野宿よりはマシだろうさ」
「はぁ……そう仰るのでしたら、お任せしますけれど」
アディスは不思議そうにするジャネットを連れて集落を後にし、近くの丘の麓へ向かっていった。
「ここから少し借りるとしよう」
「借りる? 何をです?」
「もちろん、家の材料を」
片手を丘に向けて魔力を放つ。
すると、丘全体が激しく震え上がり、草に覆われた表面を突き破って、岩の塊が幾つも地表に姿を現した。
引きずり出された岩の塊は、アディスの指の動きに従って組み合わさり、数体の岩製のゴーレムを形成していった。
「なぁっ……! こ、これはゴーレムではないですか!」
「家の材料だぞ? おっ、ついでにあっちの木も貰っていこう」
アディスはゴーレムに手振りで指示を出し、ちょうど丘の近くに生えていた木を引っこ抜かせると、そのまま集落の方へと歩かせていった。
ゴーレムの一群は畑を踏まないよう注意深く道に沿って歩き、集落の外れの開けた場所で停止する。
そして後ろをついてきたアディスが改めて手を振ると、ゴーレム達が力比べをするかのように取っ組み合い、持ってきた木をメキメキと音を立てながら押し潰していく。
この世のものとは思えない光景に、集落の住人達は物陰に隠れながら呆然と視線を送っている。
「本当は自然乾燥させた木材を使うのがいいんだが、もう遅いからその辺りも魔法で省略させておくか」
「あ、あの、これは一体?」
「何かを建築するときに大変なのは『資材の運搬』だ。要塞みたいに大規模な場合は特にな。その辺の指揮も、地の四天王である俺の仕事だったんだが……」
アディスはまるで楽団を指揮するかのように手を動かし、それに連動して、ゴーレム達が轟音と共に融合と合体を続けていく。
「あるとき気が付いたんだ。建築資材に自力で移動させれば楽だなって」
「……あああっ! そういうことですか!」
ようやくアディスの意図に気付いたジャネットが、大声で驚きながらゴーレムだったものへと視線を戻す。
そこにはもはやゴーレムの原型などなく、石材をメインにして木材の補強を加えた、大雑把なデザインの石造りの家が鎮座していた。
「しかも実際に試してみたら、別の荷物をついでに運ばせられるから、本当に便利だったんだよな」
「信じられません……まさかそんな方法が……いえ、魔法を使わない我々には最初から無理なんですけれど……」
「急ごしらえだから見た目は悪いし、家具なんかも揃ってないんだけど、なかなかのものだろ? そういうのは明日以降に仕上げていけばいいんだからな」
少しばかり自慢げなアディスに微笑みかけられ、ジャネットはこくこくと頷くことしかできなかった。
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