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44.魔剣アウローラの目覚め

「だから言っただろ? さっさと立ち上がって身構えろ。アウローラが目を覚ますぞ」

「目を覚ます……まさか知恵ある(インテリジェント)(ソード)……!」


 ウンディーネは尻餅をついたまま後ずさり、ちょうどアディスと魔剣アウローラの間合いの中間あたりで、恐怖に身を震わせながら立ち上がった。


「もしくは意識ある(センティエント)(ソード)とも言うが……その驚きよう、前任が残した資料に目を通しきれてなかったか。それでよく魔剣に手を出そうとしたものだな」


 アウローラの黒い剣身から立ち上る魔力は、まず柄や鍔といった拵えを形作り、続いてそれを握る()()()()()()()()()()


「あれは自我を持つ剣という枠に留まらない代物だ」


 しなやかな指、白い細腕、肉の少ない肩――剣を振るう部位から順に人体の模造品が生み出され、本体(つるぎ)と同じ漆黒と金糸の装束が織りなされていく。


 生物として必要な器官からではなく、腕部から形成されていくという異様。


 驚きに言葉を失ったウンディーネとは正反対に、アディスは目の前の存在が何かを正しく理解したうえで、それがもたらす脅威を警戒し続けている。


「なにせこいつは、先代魔王に調伏されるまでの数百年間、自分で自分を振るっていたんだからな」


 魔剣アウローラが魔力によって実体化させた、自分自身を振るうための端末――それは、金の飾りに彩られた黒衣の少女の姿をしていた。


 怪しい美しさを湛えた黒く長い髪と金の瞳。


 肌を覆い隠す漆黒のドレス。


 白磁の肌には冷徹な表情が浮かび、目覚めたばかりであるせいか、視線はどこか胡乱で眠たげだ。


 アウローラの端末はおもむろに片手で本体(つるぎ)を持ち上げ、大雑把かつ何気ない動作で横薙ぎに振るった。


「伏せろ!」

「えっ……?」


 アディスが叫び身を屈める。


 しかしウンディーネはとっさの反応ができなかった。


 吹き抜ける旋風。


 漆黒の刃は何も捉えず、ただ虚空を横切っただけのようだったが――何故かウンディーネの胴体に横一文字の切れ込みが走り、上半身がずるりと地面に落ちた。


 それと同時に、地に伏せたアディスの背後で、四足歩行のゴーレムがそれと全く同じ高さで両断され、轟音を立てて崩れ落ちる。


「え……嘘、斬られて、なんか、ないのに……!」


 水精であるウンディーネは体を両断されても死に至らず、右腕を斬り落とされたときと同様に、柔らかく固形化した水のような断面を晒している。


 血の代わりに滲み出ているのは透明な水。


 腹から上と左腕だけが残された状態で、ウンディーネは何とか顔を上げ、信じられないものを見るような目で黒尽くめの少女体を見上げた。


 アウローラは冷たい眼差しでウンディーネを一瞥し、漆黒の本体(つるぎ)を高く掲げた。


「ひぃっ……!」

「待った。そこまでだ、アウローラ。こんなところで暴れられたら困る」


 地に這いつくばったまま怯え竦むウンディーネの前に、アディスが平然とした足取りで進み出て、魔剣アウローラの端末である少女と対峙する。


 ここに来て初めて、アウローラの少女の怜悧な顔に表情らしい表情が浮かぶ。


 それは驚きと興味関心が入り混じった、不敵な笑みのようにも見える顔であった。


「なんじゃ。アディスよ、お主もおったのか。ここはどこだ? そこで転がっている下等魔族は何者だ?」


 鈴を転がすように澄み切った声色でありながら、まるで万の(よわい)を重ねた長老のような語り口。


 あくまでアウローラの本体は剣の方であり、少女の姿をしているモノは魔力によって生み出された端末に過ぎないのだが、造りも仕草もそれを悟らせないほどに精密である。


「事情はちゃんと説明するさ。まったく……再会を喜べる状況じゃなさそうだな」

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― 新着の感想 ―
[一言] 神輿は軽い方が良い……ただし軽すぎると担ぐ意味自体が失われるのです。 地元の子供神輿が安っぽすぎて1回しか使用されなかったのと同じ……。
[良い点] 四天王は下級魔族。 うーん、王位継承を後押しした影の実力者は一体どこに
[一言]  意識高い系の言動なのにこのお粗末さ・・・ホントにガワと力だけが取り柄なんだな、現魔王とその周辺(笑)
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