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35.原因究明の下準備

 川の流量の急激な減少――新たに立ち上がったこの問題を解決するため、さっそく対策に乗り出すことにした。


 とはいえ、取るべき行動の選択肢はさほど多くない。


 水量が減少した原因がどこにあるかといえば、誰がどう考えても『上流にある』という答えしか思い浮かばないだろう。


 アディスは中央広場に面した集会場に主要な住人を集め、今後の方針について説明をしておくことにした。


「……というわけで、ひとまず上流の様子を見に行こうと思うんだが」

「もちろん私は同行させていただきますよ。地上にいる魔族があの森のトレントだけとは限らないのでしょう?」


 ジャネットがすかさず口を挟み、上流への同行を宣言する。


 これはアディスにとって完全に想定の範囲内だ。


「分かってる。当然だな。むしろついて来ないつもりだなんて言われたら、体調でも悪いのかと疑ってたところだぞ」

「あなたの中の私は、一体どういう人間になっているんですか」

「体調不良以外について来ない理由があるのか?」

「……きっと何かありますよ、多分」


 何故そこで曖昧になったんだ、とはあえて言わないようにして、アディスはジャネット以外の面々をぐるりと見渡した。


 当然ではあるが、住人達からは同行希望が出てくることはなかった。


 とはいえ、彼らは決して臆病風に吹かれて同行を渋っているわけではない。


 どちらかと言うと、アディスが直接動いたならもう安心だ、という安堵感の方が強く出ている反応だ。


 誰もが口元に笑みを浮かべ、談笑すら始めそうな雰囲気で、これなら自分達が動くまでもないと言葉を交わしている。


 しかし、一人だけ異なる反応を見せた者がいた。


「アディス殿。よろしければ私も同行いたします」


 それは騎士ブランドンであった。


「自慢をするわけではありませんが、私はこの町にいる人間の中では、最も高度な戦闘訓練を積んだ身です。少数ですが戦闘訓練を積ませた従卒も連れてきています。きっとお力になれるはずです」

「いや、お前は町に残ってくれ」


 アディスは悩む素振りも見せずに即答した。


 ブランドンは協力を拒絶されたことに激しく驚き、すぐさま理由を問いただそうとしたが、それよりも早くアディスが言葉を続ける。


「お前には町の防衛に回ってもらいたい。俺とジャネットが調査に向かって、お前まで町を離れたら、こっちが完全に無防備になってしまうだろう?」

「た、確かにそうですが……私のような新参者に、町の防衛を任せてしまってよろしいのですか。もしも私が悪辣な悪党であれば、アディス殿の不在を突いて町を奪おうとするやも……」

「そのときは、俺自身の手で報復するだけのことだ。戦闘面では確かに四天王最弱だったけど、それでも並大抵の魔族よりは戦えるつもりだからな。大公が差し向けた軍勢がどうなったか、知らないわけじゃないだろ?」


 ブランドンは生唾を飲み込み、アディスの発言が本気であると悟って押し黙った。


 百人以上の規模を誇った大公の尖兵が、アディスの策略でたちどころに無力化されたことは、ブランドンの記憶にも新しい。


 あの力を本気で向けられてしまえば、ブランドンが連れてきた手勢など物の数ではないだろう。


 ただし今回、アディスは威圧感を与えたわけでもなければ、脅しつけたわけでもない。


 アディスの態度は、ごく当たり前のことを自然に説明するようなものであり、それだけに『刃を向ければ報復をする』という宣言が真実味を帯びていた。


「さすがはアディス殿……そう申し上げるより他にありませんね。村の防衛任務、しかと拝命いたしました。命に変えても守り抜いてみせましょう」

「ああ、よろしく頼む。お前が来てくれてよかったよ。これで安心して村を空けられる」


 アディスがブランドンに向けたその言葉は、お世辞ではなく本当にそう思っていることが、ありありと伝わってくるものだった。


 ブランドンは自分が仕えると決めた魔族の底知れなさを改めて実感し、深々と頭を下げた。


「さてと、出発は明日の早朝としよう。川の源流がある山まで足を運ぶつもりだから、念入りに準備をしておかないとな」

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