33.ブランドンの訪問
――とある日の昼下がり、アディス達が暮らす家を一人の騎士が訪問してきた。
騎士ブランドン。領民諸共に移住を希望していた人物である。
邸宅の手前までは従者を伴っていたようだったが、建物には連れ込まず一人だけ入ってきて、アディスの前で恭しく膝を突いた。
「アディス殿。ブランドンおよび移住希望の領民一同、本日をもってリブラ村の一員に加わりたく存じます」
「長旅ご苦労様。さすがにこれくらいの規模ともなると、もう村じゃなくて町を名乗るべきかもしれないな。とりあえず、改めて集落を案内しようか」
「ありがとうございます。ここに来るまでにも少々町を見せていただきましたが、随分と発展なさっているようで……正直、とても驚きました」
ブランドンを伴って、アディスは発展を遂げたリブラ村――改めリブラタウンを巡って回ることにした。
廃村寸前だった集落はすっかり整備が進み、かつての無惨さが嘘のようだ。
建物は家も倉庫も新築同然で、地面は綺麗に固められて整備され、一部には石畳の舗装すらも施されている。
更には道端に何種類もの花が植えられており、この町に精神的な余裕が生まれてきたことを表していた。
「あっ、アディス様。こんにち……は……?」
子供達と一緒に花の世話をしていたプロセルピナが顔を上げ、そしてブランドンが――見知らぬ男が居合わせていることに驚いて動きを止める。
ブランドンの方もプロセルピナが魔族であることに気付いたらしく、何も言わずに困惑混じりの視線をアディスに向けた。
「前に話していた、移住希望者の騎士ブランドンだ。荷物を町に運び込む前に、ひとまず町の状況を見せて回ってるところだよ」
アディスはまずプロセルピナにブランドンのことを紹介し、次にブランドンに対してプロセルピナの素性を説明する。
「こいつはプロセルピナ。お前達と同じように、魔界の暴君から逃げてきた連中の一人だ。町に連れてきたのはこいつ一人だが、少し離れた森にもう何体か暮らしてるぞ」
「地上にアディス殿以外の魔族が……ああ、なるほど。彼女は不可侵を保証する人質のようなものですか」
「さすがは騎士だけあって察しが良いな」
ペネム大公国の騎士として活躍してきただけあり、ブランドンはわざわざ説明を受けるまでもなく、プロセルピナが町にいることの意義を理解したようだった。
「え、ええと……紹介に与りました、プロセルピナです。草木を操る魔法なんかが使えます。町の中でハーブなんかを育てさせてもらったり……そういうお手伝いをですね……」
「こ……これはご丁寧にどうも。他にも魔族がいたというのは驚きだが、見たところ町の子供からも受け入れられている様子で……」
初対面の騎士を相手に、大袈裟過ぎるくらいの緊張に震えるプロセルピナ。
想定外に出くわしてしまった魔族に対する警戒心と、その魔族が物腰柔らかで住人から受け入れられている事実の間で、ただひたすらに困惑を深めるブランドン。
険悪にはなりそうにない雰囲気だったが、放っておいたらお互いにいつまでも下手に出続けるばかりで、一向に話が前に進みそうになかった。
なのでアディスは丁度いいタイミングを見計らって、さり気なく二人の間に割って入ったのだった。
「それじゃあ、そろそろ移動しようか。移住希望者のために作った区画も見てもらわないとな」






