32.魔王軍の厳しい現状
――アディス率いるリブラ村が地上で発展を見せる一方、地の底の魔界ではまた一つ大きく情勢が動き出していた。
魔王サタナキア率いるルシフェリア魔王国の軍勢が、建設途中の要塞を巡る隣国との戦いに敗北、軍勢を大きく後退させたのである。
要塞は未完成の状態で大攻勢を受け、あっという間に陥落。
サタナキアを含む魔王国軍の中枢も敗走し、現在は次の防衛ラインである古びた要塞に身を寄せていた――
「くそっ! 何でったってこんなことに!」
魔王サタナキアは作戦会議室の大テーブルを叩き、行き場のない怒りを吐き出した。
「あの要塞さえ完成してりゃ、こんなあっさり負けたりしなかったはずだ!」
「や、やはり、四天王のアディス様を解任したことが……」
「あぁっ!?」
会議に出席していた魔族が根本的な原因を指摘するも、サタナキアから睨みつけられて口を噤んでしまう。
サタナキア自身、アディスを手放したことが響いているのではないか、という考えには薄々至っている。
……至ってはいるのだが、それを認めることができないでいた。
アディスの不在が敗因であると認めてしまうのは、自分自身の浅い考えから下した判断ミスが大敗を招いたと認めるに等しい。
そんなことができるような性格なら、とっくの昔に平身低頭な態度でアディスに詫び、復帰を乞うているはずである。
間違っても、後釜の新四天王を送りつけて、居丈高に帰還を命じるような真似などしていない。
しかし考えても考えても、アディスを追放していなければという考えが浮かんできて、その度に苛立ちが増していたのだった。
「魔王様。確かに要塞が間に合わなかったのは残念ですけど、それでも野戦で勝利できれば問題はなかったはず。この点については、元四天王アディスの存在は関係ないかと思うのですけれど」
水の新四天王、ウンディーネのアックアが甘い声でサタナキアに囁きかける。
「ホムラすら一対一で退けてみせた、敵の新戦力。一番の問題はこちらだと思いますよ。あれほどの戦闘力の持ち主なら、アディスがいたところで何の力にもならなかったかもしれません」
アックアがちらりと視線を向けた先では、火の新四天王、ファイアドレイクのホムラが忌々しげに腕組みをして、アックアから露骨に顔を背けていた。
女性型の肉体にファイアドレイクの特徴をかけ合わせたホムラの体は、あちらこちらを負傷して包帯に覆われている。
「あたしは負けてねぇ! 真っ向勝負で互角にやりあってる間に、他の連中が雑魚どもに突破されちまって、あたしまで撤退するハメになっただけだ!」
「物は言いようね。相手には傷一つ与えられなかったと聞いたけど」
「つーか、それを言うなら他の四天王の到着が遅れたのも原因だろ! エアリアルとギーはまだ連絡すら寄越さねぇのかよ!」
「ホムラの言い訳はともかくとして。私としましては、アディスの不在を穴埋めして防御を固めるより、敵軍の新戦力……『黒い聖女』を討つ手段を模索する方が上策かと」
アックアはホムラの主張を聞き流し、再び魔王サタナキアに囁きかけた。
根本的な敗因はこちらの不手際ではなく、あちらの新戦力にある――簡単に責任を棚上げできるその甘言に、若き魔王はあっさりと飛びついてしまった。
「そうだ、お前の言う通りだな! だがそうなると、もっと強烈な戦力をかき集めないと……誰かいたか? 強力な武器でもいいんだが……そうだ!」
サタナキアがテーブルを叩いて立ち上がる。
「いい考えがある。ホムラ、アックア、お前らに命令だ。上手く行けば一発で戦況を引っくり返せるはずだぜ」
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