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3.元四天王の移住計画

 サタナキアの解雇通告から一週間後。


 アディスは最低限の荷物を纏めて、魔界を立ち去る準備を整えた。


 人間界に移住しようと考えた理由は幾つかある。


 このままルシフェリア魔王国で暮らし続けても、どうせ他の元四天王と同じく、サタナキアの嫌がらせに晒され続けることだろう。


 かといって、魔界の他勢力から『うちに来てサタナキアと戦わないか』と誘われるのを断り続けるのも面倒だ。


現魔王(サタナキア)には愛想が尽きたけど、あの国は敬愛する先代魔王が愛した国……縁を切るだけならまだしも、刃を向けるのは心が痛む。他の勢力に付くのだけは無しだ)


 先に解雇された他の元四天王が、他の勢力に寝返らずに姿を消したのも、きっとアディスと同じ理由だったのだろう。


(……さてと、この風景も当分は見納めだな)


 魔界は大地の下に広がる地下世界、巨大な月に照らされた常夜の国。


 地下資源と魔力こそ豊富だが、太陽の恵みを受けられないため、地上と比べると自然の活力はかなり貧弱だ。


 歴史上、人間界と魔界が敵対した原因の大部分は、豊かな地上を手に入れることを目的とした、魔界側からの侵略であったという。


 アディスは丘に用意した魔法陣の中心に立ち、転移魔法を無詠唱で発動させた。


 魔力の光がアディスを包み込む。


 そして次の瞬間には、周囲の風景が根底から様変わりしていた。


 光り輝く太陽。

 どこまでも広がる青い空。

 広大な草原を吹き抜ける風。


 これこそが人間界。


 大部分の魔族は訪れることもなく一生を終える、光に溢れた地上の世界である。


(ふぅ……相変わらず、地上は爽やかで心地いいな。魔界の勢力争いから距離を置いて、第二の人生を送るにはおあつらえ向きだ)


 久し振りの地上の空気をたっぷりと堪能してから、アディスは周囲を見渡しながら声を上げた。


「ところで、隠れているんだろ? 出てきたらどうだ」


 アディスが転移した場所は、柱と壁だけが残った神殿の廃墟だ。


 その柱と壁の陰から、板金鎧(プレートアーマー)とマントを纏った聖騎士がぞろぞろと姿を現す。


 彼らは遠巻きにアディスを包囲するように立ち止まり、そして一人の美しい女騎士が前に進み出た。


 銀色に近いプラチナブロンドの髪を風に靡かせ、他の聖騎士よりも流麗さを重視した鎧に身を包んだその少女は、柔らかな物腰で騎士達に指示を出した。


「私が相手をします。皆はなるべく遠くへ下がっていなさい」

「はっ。聖女様、どうかお気をつけて」


 騎士達はアディスに背を向けずに後退し、包囲の輪を広げていく。


 聖女と呼ばれたプラチナブロンドの少女は、騎士達が充分に離れた辺りで聖剣を抜き放ち、その切っ先をアディスに向けた。


「我が名はジャネット。アルマロス聖王国の第一位階聖女。そこの魔族、あなたも名乗りなさい」

「辺境に転移すれば誰にも気付かれないと踏んだんだが、まさか最高位の聖女が居合わせていたとはな……ルシフェリア魔王国のアディスだ。肩書は……今は何もない」


 アディスは移住計画が第一歩目から(つまづ)いたことを悟り、溜息を吐いた。


 魔族が人間から歓迎されるとは思っていない。


 なので、誰もいない辺境の地に人知れず移り住もうと思っていたのだが、タイミングの悪いことに厄介な相手と鉢合わせてしまった。


 ジャネットと名乗る少女は、右手で剣を向けたまま、左手に光を纏わせて耳元に近付け、ここにはいない誰かにアディスのことを報告し始めた。


「聖王陛下、例の魔族と接触しました。ルシフェリア魔王国のアディスと名乗っています。ええ、これから戦闘を……えっ? はぁっ!?」


 突然、ジャネットが驚きに顔を歪めて大きな声を上げる。


「剣を収めて話を聞け、ですって!? 何を言っているんですか!」

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