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25.魔界植物の生態解説

 移住を希望する騎士ブランドンとその領民の受け入れ準備と、リブラ村の周辺に存在する不可思議な土地の調査。


 どちらも重要な仕事であるが、両方ともアディスが主導しなければならない関係上、それらを同時進行で済ませることは難しかった。


 なので、大切なのは優先順位を定めること。


 アディスは村人達と相談し、他の魔物や魔族が地上に来ている可能性を危惧するジャネットを説得して、まずは新住民の受け入れ準備を済ませることにした。


「ある程度の食料や生活に必要な道具は、元の居住地から運んでくるとのことだ。必要なのは住居の建て増しだな」


 普通なら少なくとも数ヶ月は要する大仕事も、アディスの魔法があれば大幅に短縮することができる。


 建材に適した石が採れる場所を見繕い、そこの石材を材料にゴーレムを生成。


 そのゴーレムを労働力として最寄りの林から木材を伐採し、村まで運搬。


 リブラ村の住居を建て直したときと同じ要領で、木材を巻き込みながらゴーレムの形を組み替え、住居の原型を形成していく。


 やることは以前と同じだが、規模はかなり大きくなっている。


 木材を担いだゴーレムの一団が、ぞろぞろと列を成して村へと歩いてくる様子は、地上では滅多に見られない壮観な光景であった。


「四天王アディス。少々よろしいでしょうか」


 アディスが村人達に建物の仕上げの指示をしていると、聖女ジャネットが何気なく話しかけてきた。


「魔界人にとっては下らない質問かもしれませんが、植物を操る魔法も地属性の領分なのですよね」

「まぁな。だから作物を急速に育成させることもできたし、伐採したての木材をすぐ使い物にしたりもできるんだ」

「それなのですが……魔界において『植物を操る魔法』というのは役に立つものなのでしょうか」


 不思議そうな顔をするジャネット。


 アディスは何を疑問に思われているのか、すぐには理解することができず、一拍遅れて質問の意味に思い至った。


「ああ、魔界は闇に閉ざされた地下世界だから、植物なんて生えないんじゃないかって思ってるのか」

「自然に乏しい荒れた世界だと聞いています。太陽がないのなら緑の葉をつけた木々も生えないのでは、と。そう思ったのですが……」


 魔界で生まれ育ち、現地の環境をよく知っている魔界人のアディスと、間接的な知識しか持ち得ない地上人のジャネットの間には、魔界の知識について大きな差があったわけだ。


「意外かもしれないが、地上のような太陽のない魔界にも、枝に葉をつけた植物が普通に生えるものなんだ。地上の価値観で考えると、かなり禍々しい姿形をしているかもしれないがな」


 アディスは教師のように落ち着いた口調で、魔界の植生について軽く説明を加えた。


「魔力は大地を巡る力だ。地上では必然的に地表から湧き上がるわけだが、魔界は地下の異空間。故に、魔力は頭上も含めたあらゆる方向から滲み出るものになる」

「確かに……言われてみればそうですね」

「そして、魔界の空から溢れた魔力は空中の一点に集まり、巨大な月を形成する。太陽とは比べるべくもないが、地上の月と比べれば格段に明るく、魔界の野外に多少なりとも光を注いでいる。魔界の木々が受け止めようとしているのは、この光だ」


 魔界の月が放つのはただの光ではない。


 豊富な魔力を帯びた光であり、魔界の地表から得られる魔力と合わせて、魔界の植生を支える貴重なエネルギー源となっている。


「姿形が地上の植物とよく似ている理由は……まぁ、どちらかがオリジナルで、もう一方の世界に生息域を広げたってところだろう」

「なるほど、ありがとうございます。魔界にも森があって、その環境に適応した魔物や魔族がいるわけですね。そういった者達が地上に現れた可能性は充分にあると……」

「やっぱりそこに繋げるんだな」


 思わず苦笑するアディス。


 ジャネットは不服そうな顔をして視線を逸らし、唇を小さく尖らせた。


「これは職業病みたいなものです。あなたが地上でも街作りに精を出しているのと同じですよ」

「……そういうものか」


 アディスは妙な納得を感じながら、村人達の指導に意識を戻したのだった。

 読んでいただきありがとうございます。


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