24.集落周辺の不可思議領域
【お詫び】
先日、別作品の更新分を誤って本作の続きに投下したうえ、ほぼ丸一日それに気付かないという状況になってしまいました。
この場を借りて、ミスに対するお詫びと、感想欄やメッセージやTwitterなどで報告してくださった方々へのお礼を申し上げます。
次にアディスが向かった先は、川の支流を辿った先の森の方だった。
木立や林といった程度の群生地なら、もっと村に近いところにも何ヶ所かあるが、森と呼べるほどの規模となると少し距離がある。
森林資源を求めるなら、こちらにも足を運んだ方が良さそうだ。
アディスはそんなことを考えながら、のんびりとゴーレムを歩かせていたのだが――
「――ん? この妙な懐かしさ……まさか……」
ふとした違和感が段々と確信に変わっていく。
四足歩行のゴーレムの肩に座ったまま、アディスは地表に腕を向けて大地の魔力を励起させた。
すると、魔力がまるで間欠泉のように噴出して、大量の土と砂を巻き上げる。
(やっぱり。リブラ村の近くよりも魔力量が多い……正確なところは計測してみないと分からないが、魔界の端の辺りに肩を並べそうな濃度があるな……)
森の手前で足を止めたまま、しばし考察を巡らせる。
まず真っ先に思い浮かぶ可能性は、この辺りの土地の豊富な魔力が、何らかの理由でここに吹き溜まっているというパターンだ。
魔力は大地を常に流れ巡るものなので、その流れの交差点はとりわけ濃度が高まりやすい。
そしてこういったスポットでは、魔力濃度の高い土地に適応した植物が育ちやすかったとしても、何ら不思議はないはずである。
もしくは、植物の方が魔力を引き寄せ、溜め込んでいる可能性も考えられる。
(まぁ、この辺りが無難な仮説になるだろうな。無難じゃない仮説は……さすがにあの聖女が黙っていなさそうだ)
アディスは森に踏み込んでみようかとも思ったが、さすがに止めておくことにした。
濃密な魔力を帯びた森だなんて、見た目通りの単なる森であるはずがない。
何が出てきても不覚を取るつもりはないが、想定以上に時間を食って帰りが遅くなってしまう恐れはある。
特に急がなければならない理由もないのだから、この森に足を踏み入れて調査をするのは、村の住人達に一言告げてからにしてもいいだろう。
(さてと、今日のところは引き返すとするか)
散歩と称した探索の成果は、なかなかに満足できるものであった。
地下資源の採掘が望めそうな山に、やたらと魔力が豊富な森。
恐らく山には川の源流があるだろうし、森にも川が流れ込んでいるので池や湖もあるかもしれない。
村の整備が一段落したら、今度はそれらの調査に乗り出すとしよう。
アディスはそう考え、リブラ村への帰路についたのだった――
――その日の夕方、アディスは例の山と森に関して、適当な村人に何気なく尋ねてみた。
曰く、アディスが見かけた山からは、夜な夜な恐ろしい獣の鳴き声がするので、村人達はあまり近寄らないようにしているのだという。
狼が縄張りにしているのではと考えられているが、今のところ誰も確かめたことはないらしい。
そして森の方は、稀に猟師が獲物を求めて立ち入ることがあり、そのたびに不可思議な体験をしているのだそうだ。
「森の奥に人影を見たですとか、風もないのに木々が動いたような気がしたですとか。後は話し声のような音が聞こえたとも言っていましたね。私としては、ただ単に何か動物がいただけじゃないかと思うんですが……」
「当の猟師達はそう思っていないと」
「……ええ。不気味だから入りたくないとも言っておりますが、大きな鹿が捕れる場所でもありまして……この前の宴会でお出しした鹿も、あの森で狩られたものなのですよ」
それは尚更、調べてみる価値がありそうだ。
猟師本人にも話を聞いた方がいいかもしれない。
アディスがそんなことを考えていると、背後からぞくりと悪寒のような気配が伝わってきた。
恐る恐る振り返ってみると、そこには案の定、怖い笑顔を浮かべた聖女ジャネットが佇んでいた。
「なるほどなるほど。大変興味深いお話です。ところで四天王アディス。私のような武器持ちの聖女の仕事、本来はどんなものかご存知ですか?」
「……地上に迷い込んだ魔獣や、忍び込んだ魔族の退治だろ? 分かってる、分かってるから、そんなに天力を撒き散らすんじゃない。さっきから背中がヤスリがけされてる気分なんだ」
アディスが地上に現れた当日、何の躊躇もなく聖剣を振り向けてきたこの聖女が、魔獣や魔族らしき不可解な存在を見過ごすはずがない。
ひとまずアディスはジャネットを宥めながら、例の森の調査を大幅に前倒しすることを心に決めたのだった。
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