23.辺境の探索
――それから数日後、アディスはジャネットから無理やり送り出される形で、リブラ村から離れて周囲を散策することになった。
本来なら、ブランドンが率いる移住希望者達の受け入れ準備を終わらせてしまいたかったのだが、さすがに働きすぎだという忠告を無下にはできない。
(いい機会だ。集落の周りに何があるのか、一通り見て回るのもいいだろうな)
リブラ村を出発したアディスは、四足歩行のゴーレムの肩に揺られ、そんなことを考えながら 遠くを眺めていた。
四足歩行といっても馬や犬のような形ではない。
普通のゴーレムの腕を大きく、そして長く形成した代物だ。
完全な偶然ではあるが、遥か南方に生息する大型類人猿に類似したナックルウォーキング――岩石製の握り拳で馬の蹄のように地面を押して前進する歩法である。
(有用な樹木に植物、使えそうな土地に地下資源……まるで宝探しの気分になってくるな。近場の川以外にも水場があればいいんだが)
休養として集落を離れたにもかかわらず、結局こうして村の開拓に繋がることばかり考えているだなんて、ジャネットが知ったら心底呆れ返るに違いない。
しかしアディスとしては、これは充分に娯楽の範疇の探険であった。
アディスが長い歳月を過ごしてきた魔界は、地下に広がる暗闇の異空間。
普通、最も明るい時間帯であっても、地上の黄昏や黎明あたりが関の山であり、昼間のような眩さとは無縁である。
そんな環境だからか自然環境も貧弱で、豊富な魔力ありきで生態系が成立しているようなものだった。
なので、光と自然に満たされた地上の世界というのは、それだけで見る価値がある存在なのだ。
百年前に地上を訪れたことがあるアディスですら、地上を自由に見て回ることが楽しみになるのだから、一般の魔族にとっての地上はそれに輪をかけて魅力的な未知の世界。
地上を我が手にと望む魔族が後を絶たないのも当然と言えるだろう。
(こんなにも自然に満ち溢れているのに、まだどこの国の領地にもなっていなかったというのは、少々不思議だな。やはり土壌の魔力が強すぎるのが原因か)
アディスはリブラ村の近くを流れる川に沿って遡上しながら、この辺境が置かれている状況を推理した。
不毛の荒野でもないなら、手つかずの土地は周辺国家がこぞって手中に収めようとしても、何ら不思議ではないだろう。
しかし、アディスが訪れる前のリブラ村がそうであったように、他所の土地から持ち込んだ作物は、魔力が豊富な土壌に適応できず上手く育たなくなってしまう。
解決策は、土地の魔力を制御して局所的に濃度を下げるか、品種改良で魔力に適合した作物を作るかのどちらかしかないが、どちらもできないなら手を出すことは不可能だ。
恐らくだが、これまでにも周辺国家が開拓を計画しては失敗を重ね、最終的にどの国も手を引いてしまったのだろう。
(どこも使う気がないなら、いっそ丸ごと貰ってしまっても……いや、いきなりそこまでやるのは、さすがにな。どう考えても周囲を警戒させるだけだ。こういうのは少しずつ着実に……ん?)
アディスはゴーレムの足を止め、ふと遠くを見やった。
川を辿った先に山地がそびえているのが目に入る。
リブラ村の位置からだと地平線に大部分が隠れてしまって、存在があまり気にならなかったのだが、こうしてみるとそれなりに大きな山地のようだ。
「こいつは、なかなか……上手くすればいい資源が掘り出せるかもしれないな」
地属性の使い手として培ってきた直感が、あの山に有用な地下資源が存在する可能性を告げている。
しかし現状のリブラ村の状況では、まだあそこまで手を伸ばす余裕はないだろう。
アディスは山脈の開発を後々の楽しみとして取っておくことにして、ひとまずゴーレムを別の方向へ向けたのだった。
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