2.新四天王の挑発
魔王サタナキアからの解雇通告を受け、意気消沈して執務室に引き返していくアディスの前に、三人の女魔族が立ちはだかった。
「よう、オッサン。サタナキア様から聞いたよ。遂にクビになるんだって?」
一人目は人化した雌のファイアドレイクのホムラ。
赤い鱗に赤い髪。赤い服の下から尻尾と翼を覗かせ、鋭い牙を見せてにやりと笑っている。
アディスの外見は人間なら間違いなく青年だが、魔界人は寿命が長く老化も遅いため、実年齢は決して若いとは言い難い。
「あらあら。これで四天王も遂に総入れ替えね。火も水も風も代替わりしたんだから、地の四天王も時間の問題だと思っていたけれど」
二人目は水を衣のように纏ったウンディーネのアックア。
肌が透き通るように白く、ホムラと比べると言動も外見も大人びている。
「でもさでもさ! クビの理由が『地味だから』って笑えるよね! 他の三人もひっどい理由でクビにされたけど、一番ケッサク! あはははは!」
三人目は風の妖精シルフィードのエアリアル。
背丈はアディスの半分程度で、空中に浮かび上がったまま腹を抱えて笑い転げている。
――余談だが、魔族とは魔界に住む知的種族の総称であり、魔界人は魔族の一種の呼び名である。
地上の人間によく似た見た目の肉体に、角などの器官が増えているものが魔界人に分類され、アディスとサタナキアもこれに属している。
「もう知っているのか。さては俺より先に魔王から聞かされたな?」
アディスは三人を順番に見やってから、短い溜息を吐いた。
「お前達の言う通り、先代魔王にお仕えした四天王はこれで全員お役御免だ。この調子だと、俺の後任も大層な美女か美少女になるんだろうな」
「何だよいきなり。あたしを褒めたって何にも出ないからな」
「そうそう。口説くならもっと上手に口説いてよね」
たっぷりの皮肉が込められた発言だったが、ホムラとエアリアルには文字通りの褒め言葉として受け止められたようだ。
火の新四天王、ファイアドレイクのホムラ。
風の新四天王、シルフィードのエアリアル。
水の新四天王、ウンディーネのアックア。
彼女達は全員、サタナキアが魔王になってから指名された新顔だった。
先代魔王に付き従ったベテランの四天王は次々に排除され、その代わりに様々な種族の美女や美少女が据えられたのである。
もちろん彼女達に実力がないとはいわないが、先代四天王と比べたら格落ちするのは否めなかった。
(評価基準は直接的な戦闘能力と、サタナキア好みの外見だけ……これが栄光あるルシフェリア魔王国の四天王だって? この国は本当にもう駄目なんじゃないのか……?)
際限なく湧き上がってくる頭痛に額を押さえるアディス。
女だから弱い、という人間界の偏見じみた理屈は、少なくとも魔族には全く当てはまらない。
元四天王にも女性魔族が所属していたし、最前線でも女兵士が当たり前に活躍している。
問題は、戦闘能力と外見で選ばれた彼女達が、果たして四天王の資質を備えているかどうかである。
「まったく、アディス殿は心配性ね。これから先は私達に任せて、どこかに隠棲して第二の人生を送ってはいかが?」
アックアが挑発的にくすくすと笑う。
しかしそれを聞いたアディスは、怒るどころかむしろ、それをいい案だと感じてしまっていた。
(どこかで第二の人生か……悪くないな。でもどこに行こうか……)
アディスは移住先を真剣に検討し、やがて一つの斬新なアイディアに思い至った。
(そうだ、人間界に行こう。あっちだったら魔界のしがらみとは無縁のはずだ)
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