17.全力の絶縁宣言
突如として発生した転移魔法の気配――アディスとジャネットはその正体を確かめるため、即座に動き出していた。
素早く上着を引っ掴んで羽織り、ジャネットの聖剣で空間を断ち切って、この土地に来たときとは逆に移動する。
そこは最初にアディスが地上に現れた神殿廃墟。
夜空の下で静かに佇んでいたその廃墟は、アディス達がその場に現れた次の瞬間、地中から出現した何かに吹き飛ばされてしまった。
「うわあっ!? な、何が……!?」
「魔界からのお客さんのお出ましだ。大方、どこの誰かは想像つくけどな」
破壊された廃墟の残骸がアディスとジャネットめがけて落ちてくる。
しかしアディスが軽く手を横に振っただけで、それらはピタリと空中に静止して、更に非現実的な方向転換で真横に吹き飛んでいった。
廃墟を吹き飛ばし、粉塵を撒き散らしながら地中から現れたもの。
それは重装甲に包まれたゴーレムであった。
アディスがリブラ村で作っていた作業用とは雰囲気が違う、頑健で攻撃的なデザインの岩の巨体。
人体の数倍はあろうかという人型の岩石人形が、神殿の残骸を踏みにじって、アディスとジャネットの前に立ちふさがる。
「やっぱりお前か、ギー」
「お、お知り合いですか!?」
「魔界にいた頃のな。本人の認識はともかく、一応は部下だったってことになる」
このゴーレムには首がなく、頭と胴体が一体化した奇妙な形状をしている。
そして頭部に相当する部分が、まるで蓋のように内側から開けられたかと思うと、ゴーレムの内側から小柄な少女のような魔族がひょっこりと顔を出した。
「ええ、どうも。スプリガンのギーですよ。今は四天王のギーと名乗ってますけどね」
「やっぱりお前が俺の後釜だったか」
ギーと名乗った魔族は、ゴーレムの頭の内側から降りようともせず、アディスとジャネットを見下ろしている。
より正しく表現するなら、見下していると言うべきだろうか。
のんびりとした口調に眠たげな表情だが、しかしその眼差しには格下を見るような雰囲気が籠もっていた。
「クビにした奴に今更何の用だ? そっちの邪魔をする気はないぞ。俺はこっちで大人しく第二の人生を送るつもりなんだからな」
「ええ、聞いてますよ。でも、そんなことはどうでもいいんです」
ギーは興味なさそうにアディスの言葉を聞き流し、あちらの要求を一方的に押し付けてくる。
「魔王サタナキアからの要請です。魔王軍に戻って作業に従事せよ、とのことです」
「……はぁ? 何を今更」
「あなたがいなくなってから、裏方の作業効率が低下していましてね。四天王である私の部下という形で労働に従事せよ。魔王サタナキアはそう仰っているのです」
アディスは深々と溜息を吐き、ゴーレムの頭部に乗り込んだギーを呆れ返った顔で見上げた。
「サタナキアに伝えろ。今更戻ってこいと言われても、とっくに愛想は尽きているんだ。戻れだなんてお断りだね」
その宣言に躊躇いはない。
文字通り心の底からの絶縁宣言。
あちらはアディスが喜んで帰還すると思い込んでいたのかもしれないが、あまりにも見通しが甘いと言わざるを得なかった。
「……そうですか。では強引にでも連れて帰りましょう」
ギーの巨大ゴーレムがアディスを捕らえるべく腕を伸ばす。
アディスは臨戦態勢を取ろうとするジャネットを後ろに押しやって、一人だけでその腕に掴まれた。
「説得は後でゆっくりさせていただくとして……」
「まったく……ギー、お前は進歩してないな。解呪対策は念入りにしておけと言っただろ」
次の瞬間、アディスを捕まえたはずの岩の手が、バラバラの岩になって砕け散った。
「えっ、えええっ!? 嘘、こんなあっさり、ゴーレムが分解……!?」
ゴーレムの巨体が、ギーの驚きを反映して無様に後ずさる。
アディスは落ち着き払った態度で、服についた砂を払い落とし、再びギーを睨み上げた。
「もう一度だけ言う。愛想はとっくに尽き果てた。二度と俺に関わるな」
「く、くそおっ……! これで勝ったと思うなよぉ……!」
あまりにも典型的な捨て台詞を吐きながら、巨大なゴーレムが魔界へと帰っていく。
アディスはその姿も気配も消え失せたのを確かめてから、肩を竦めてジャネットに向き直った。
「後で天法のお清めでもしといてくれ。転移封じはできないだろうけど、ちょっとは気が楽になりそうだ」
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