1.新魔王の解雇通告
「アディス。お前は今日でクビだ」
ある日、地の四天王のアディスは新魔王のサタナキアに呼び出され、唐突にとんでもないことを言い放たれた。
「クビ? ……サタナキア様、一体何を仰っているのです?」
アディスは眉をひそめて玉座に視線を向けた。
新魔王のサタナキアは、先代魔王の死を受けて急遽即位した新人魔王だ。
人間でいうと二十代に差し掛かった程度の若者で、魔界人の特徴である左右一対の角もまだまだ短い。
対するアディスは二十代半ばから後半相当の外見だが、一対の角はドラゴンのように立派で、彼が長い年月を生きてきたことを表している。
つまり現状を俗な表現で喩えるなら、年若く経験の浅い二代目経営者が、先代から仕えているベテラン管理職に、唐突な解雇通告を突きつけたようなものであった。
「聞こえなかったか? お前は俺が率いる魔王軍に必要ない。だからクビだ、クビ」
「納得できません。理由を聞かせていただけますか」
当然のよう食い下がるにアディス。
サタナキアは玉座の背もたれに身を預け、見下すような視線をアディスに向けた。
「お前さ。俺達が魔界の覇権を争って、他の有力者共とバトルしまくってるのは知ってるよな?」
「もちろんです! 私も王国のため全力を尽くしてきました!」
「それって全部、地味ぃーな裏方の仕事だろ? んなもん奉仕種族にやらせときゃいいじゃねぇか」
「……は?」
アディスは頭が真っ白になる感覚に襲われた。
「分かるか? 俺が四天王に求める能力っていうのは、とにかくド派手に敵を蹴散らす攻撃力なわけ。地味な仕事しかできない奴に、四天王を名乗ってもらいたくないんだよ」
確かにアディスが扱う地属性の魔法は、他の同格の魔族と比べると、直接的な攻撃力には劣っている。
けれどその分、攻撃以外の仕事をさせれば右に出るものはいない。
農地、水路、城壁、採石場、その他諸々。
産業用および戦闘用ゴーレム。
それらの新規開発と維持管理。
いずれも地属性の使い手が担うべき大事な仕事であり、地味かもしれないが国家を支える礎だ。
ところが、この魔王はそういった裏方仕事の重要性を理解していない。
奉仕種族に丸投げすれば充分で、四天王の肩書に値しない雑用としか思っていないのだ。
「何を言っているのですか! どれも戦闘より重要な仕事です! この資料を読めば分かるでしょう!」
アディスが声を荒げて指を鳴らすと、サタナキアの膝の上に分厚い書類の束が転送された。
「うるせぇな。クビが嫌なら下っ端に降格でもいいんだぜ?」
サタナキアが書類の束を片手で払い除ける。
バラバラに舞い散った書類は空中で青い炎に包まれ、跡形もなく燃え尽きてしまった。
アディスは失望感に打ちひしがれながら、これが最後の抵抗だとばかりに説得の言葉を絞り出した。
「確かに、地属性が担う職務は地味なものかもしれません。ですが、それこそが国を支える礎なのです! 目立つものばかりに気を取られては、国が滅んでしまいます!」
「何言ってんだ。俺は魔王だぞ? 魔王が満足できねぇ国家に何の意味があるんだ。優先順位を間違えるんじゃねぇよ」
深い落胆がアディスを襲う。
これ以上はどんなに言葉を尽くしても意味がないだろう。
「……分かりました。職務の引き継ぎ準備をいたしますので、これで失礼します」
アディスはこの国の将来に絶望しながら、命じられるがままに会議室を後にしたのだった。
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