さらば、妖精族の隠れ里
ブレイレッジへ戻る人数が一人増えたものの、誰もその事に文句を付ける事はなかった。
むしろ、住人が増えたと喜ぶ者まで出てくる始末だ。
「ポルクル君が来てくれたら村がまた発展するわね、スウェイン!」
「それはそうだが……なんでお前が喜ぶんだ、リリル?」
「貴様! 我が娘になんだその態度は!」
「グラインザ様は黙っててください!」
「そうよ! お父様は黙ってて!」
「……お、お前たち、我は、魔王なのだぞ?」
勇者が魔王に様付けしているだけでもありがたく思ってもらいたい。……いやまあ、勇者として活動するつもりはさらさらないんだが。
「それではリッフェミー様、お世話になりました」
「いえいえ。こちらこそ久しぶりに賑やかな夜を過ごす事ができて楽しかったです」
そう口にしたリッフェミー様の視線は俺からポルクルへ向かった。
「ポルクル。スウェイン様たちの迷惑にならないよう、気をつけるのですよ」
「もちろんです、リッフェミー様!」
「それと、自分にできる事があれば積極的にチャレンジなさい。それがスウェイン様たちの助けになるでしょう」
「はい!」
「もう一つ。先に移住している人族や魔族の方々とも仲良くするのですよ?」
「分かっています!」
「あぁ、そうそう、妖精族だからと傲慢にならないよう気をつけて――」
……うん、リッフェミー様、話が長いな。
「……ねえねえ。リッフェミー様って、絶対に親バカになってるわよね?」
「……それをお前が言うか、リリル?」
一番の親バカはお前の親父だろうが。
「あ、あの、リッフェミー様? そろそろ終わりにしないと、お兄さんたちが……」
「あら! おほほほほ、ごめんなさいね、スウェイン様」
よく言ってくれた、ポルクル!
「いやまあ、今生の別れってわけじゃないですし、たまにはポルクルと一緒にこっちにもまた顔を出しますよ」
「そうですね。……うんうん、その通りよね。ポルクル、またこちらにも遊びにいらっしゃいね?」
「はい、リッフェミー様」
「……絶対によ? 何がなんでもよ?」
だから長いんだよ!
「そ、それじゃあ、そろそろ転移魔法陣に向かいますね?」
「あらやだ! そうですね!」
無理やり話を終わらせないと絶対に終わらなかったな、これは。
とはいえ、やはり別れは寂しいのか最後にポルクルが前に出るとリッフェミー様に抱きつき、その背中に手を回してリッフェミー様も優しく抱きしめていた。
「……また来ます、リッフェミー様」
「……いつでもいらっしゃい、ポルクル」
手を放したポルクルが後ろに下がろうとすると……下がろうと……おいおい!
「…………ぐ、ぐるじぃ」
「リッフェミー様!?」
「あらあらまあまあ! ごめんなさいね、ポルクル! おほほほほ!」
これ、さっさと帰ろう。時間の無駄だ。
というわけで、何やら寂しい別れになるかと思いきや意味もなく疲れが溜まってしまう別れになってしまった。
妖精族の隠れ里を離れてしばらくするとポルクルは少し寂しそうに振り返ったが、すぐに前を向いて俺の隣に並んだ。
隠れ里を出るという決断をしたのは彼自身なのだから、それなりの決意もしているだろう。
「……寂しいか?」
「少しだけ。でも、今はそれ以上にワクワクしています!」
「そうか。ならよかったよ」
ポルクルは強いな。……まあ、見た目が幼いだけで実年齢は俺よりも年上らしいのだが。
年齢を聞いてみたいものの、聞いたら今みたいに接する事ができなくなる気がして怖い部分もある。だから……そう、聞かないのだ。
「ほほう! 我の魔法陣は一回限りのものにしていたのだが、上手く修復されているようじゃのう!」
「修復というか、再構築ですね。……あれ? でも、一回限りというわりには消えてないな?」
転移魔法陣の場所に戻ってくると、グラインザ様がそのように声をあげる。
俺は元の転移魔法陣を再構築しただけなのだが、それならこちらに来た時点で消えていてもおかしくはない。
それにもかかわらず、転移魔法陣はそのまま残っていたのだ。
【再構築した段階でスウェインにのみ継続使用ができるよう内容を調整済みです】
……あー、うん。勝手な調整と勝手な説明をありがとう、鑑定スキル。
というわけで、俺は今の説明をそのままグラインザ様たちに伝えてみた。
「――……はあ?」
「全く。久しぶりに規格外の事をしてくれたわね、スウェインは」
「あははっ! 本当に君は面白いね、スー君!」
「す、凄いですよ、お兄さん!」
「ガウガウガーウ!」
最後のツヴァイルが何を言っているのかは分からなかったが……なんだろう、最初の三人からは褒められている気がしない。
とはいえ、俺だけが継続使用できるって事はこの魔法陣が悪用される恐れもないって事で、良しとしておくかな。
「それじゃあ戻るぞ――ブレイレッジへ!」
そして、俺たちはツヴァイルを無事に保護し、なおかつ新たな住民とその候補を連れてブレイレッジに戻っていったのだった。……まあ、候補の方にはご遠慮願いたいのだが。
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