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子供との会話

 酒も進んでグラインザ様が出来上がったところで、俺は少しだけ外の空気を吸いに屋敷の玄関に立っていた。

 妖精族の隠れ里はとても不思議な場所だ。自然に生えた大木を利用して住居を造っている光景もそうだが、夜になると初めて見る事ができる自然ではないこの美しい輝きだ。

 枝葉の先で明滅するあの光……あれはいったい何なのだろうか。


「うーん……気になる」


 玄関から屋敷の中へチラリと視線を送ると、中からはグラインザ様の大きな笑い声が聞こえてくる。……これは、まだまだ終わる気がしないなぁ。


「ちょっと外に行って光の謎でも……あれ?」


 屋敷から離れようかどうかを考えていると、屋敷の先にある門の前に人影を見つけた。それもあの子は……。


「昼にこっちを見てた子じゃないか?」

「あっ!」


 そして、またしても俺が見ている事に気づいてから走り去ってしまった。


「……気になる」


 これはいじめとかではないぞ? 単なる好奇心だ。第一、見られている事に気づかれて逃げるなんて、人が人なら傷ついてしまうところだからな、うん。


「というわけで――ふっ!」


 俺は素早く駆け出すと、あっという間に子供の前に先回りして仁王立ちしていた。


「うわあっ!?」


 案の定というか、子供は声をあげて驚いて腰を抜かそうとしている。


「おっと!」


 子供が尻もちをつく前に体を支えた俺は、何度も瞬きを繰り返しているこの子に優しく声を掛けた。


「さっきも昼も、こっちを見てたよな?」

「あ……」

「別に怒っているわけじゃない。ただ、なんで見ていたのか気になってな。昼だけなら興味本位だろうって思ったんだが、夜もリッフェミー様の屋敷前にまで来て見てたから気になってな」


 当たり前の質問だったはずだが、子供は下を向いて黙り込んでしまった。

 何か事情があるのかもしれないが、俺はこの子が口を開くまで待つ事にした。


「……そ、外の世界って、どんな感じなんですか!」

「……外の世界か?」

「は、はい! 僕、ここから一度も出た事がなくて、外の世界の事がずっと気になっていたんです!」


 なるほど。外の世界について聞きたかったから、外からやって来た俺たちの事を見ていたのか。


「うーん……別に面白い事なんて何もないと思うぞ?」

「そんな事はないよ! 僕、外を見て回って来た大人から色々と話を聞いてたんだもん!」

「そうなのか?」

「うん!」


 そこまで期待されてしまっては、何も話さないわけにはいかないか。


「だがまあ、何から話せばいいのやら……」

「いいの!」

「ん? あぁ、構わないよ」

「そ、それじゃあ、ここに来るまでの話を聞かせてよ!」

「妖精族の隠れ里に来るまでの話か?」

「うん!」

「うーん……まあ、それくらいなら俺にもできるか」

「やったー!」


 諸手を上げて喜んでいる子供の反応に微笑みながら、俺は聞いていない事を思い出した。


「そうだ! 俺の名前はスウェイン。君は?」

「僕はポルクルだよ!」


 ポルクルの名前を聞いた俺は、近くの切り株に腰掛けてここに至るまでの出来事を話し始めた。

 本当に他愛のない話だ。ブレイレッジから魔界に入り、魔獣を討伐しながら転移魔法の残滓を見つけて、転移魔法陣を再構築してここまでやって来た。


「ま、魔獣は強かった? 怖かった?」

「うーん、俺にとっては強くも怖くもなかったかな」

「そうなの! お兄さんは強いんだね!」

「でも……昔の俺だったら、簡単に殺されていただろうし、怖かっただろうね」

「昔のお兄さんだったら?」

「あぁ。……俺は、色々と変わったからなぁ」

「……そうなの?」

「……あぁ。っと、つまらない話をしちゃったね。それじゃあ、他にもツヴァイルとの出会いについても話をしようか」

「いいの! ツヴァイルとは僕もたくさん遊んだから嬉しいな!」


 満面の笑みを浮かべてくれるポルクルと話をしていると、いつの間にか周囲の輝きが強くなった気がする。


「あっ! もう遅い時間になっちゃった!」

「分かるのか?」

「うん。枝葉の先が光ってるでしょ? あの光が強さで夜の時間を見てるんだよ!」

「そうだったのか。遅くまですまなかったな」

「ううん! 僕、とっても楽しかった! それじゃあスウェインお兄さん、また明日ね!」


 切り株から立ち上がったポルクルは満面の笑みを浮かべてそう口にすると、何度も振り返り手を振りながら去っていった。

 俺も手を振り返して見送ったが……また明日か。


「……明日には、出発しちゃうんだよなぁ」


 ポルクルには悪い事をしたかもしれないなぁ。

 そんな事を考えながら、俺はリッフェミー様の屋敷に戻っていったのだった。

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