美味い食事を作ります
ゆったり温泉に浸かってから俺が向かった先は――屋敷の台所である。
……何故だ! マジでゆっくりしたかったんだけど!
とはいえ、ここまで来たのだから何か一品くらいは作らないとグラインザ様に殺されるかもしれない。
温泉ではまあまあいい関係を築けた気もしたが、約束を違えると何が起きるか分からないからな。
「とはいえ、俺がパパっと作れそうなものと言えば揚げポロスライスくらいなものだからなぁ」
ポロ芋はここにもあると事前にリッフェミー様から聞いている。
言っておくが、俺は料理が上手なわけではなく、リリルやルリエができなさ過ぎるのだ。
ただ揚げただけのポロ芋や、簡単に味付けした肉を出しているだけだからな。
まあ、自然に生えている香草や薬草に詳しくなければなかなかできない事ではあるけど、それにしても簡単にできるものばかりだ。
リッフェミー様が料理上手なのであればそれくらいは当然知っているだろうし、そもそも隠れ里のような大自然の中で生活しているのだから香草や薬草に詳しいだろうことは想像に難くない。
……これ、俺が勝てる要素が一つも見つからないんだけど。
「まあ、メインはリッフェミー様の料理として、俺は軽くつまめる一品で問題はないか」
という事で、当初の予定通りに揚げポロスライスを作る事にした。
「台所を少しだけお借りしますね、リッフェミー様」
「えぇ、どうぞ。温泉はいかがでしたか?」
「とても気持ち良かったです。……最後にこれがなければもっと最高だったんですけどね」
「グラインザ様は我儘ですからね、許してあげてください。それに、お嬢様と再会できてとても嬉しそうですし」
……まあ、泣いて喜んでいたからなぁ。
「俺は簡単なものしか作れませんから、メインはよろしくお願いします」
「うふふ。お任せください。でも、私もスウェイン様の料理を楽しみにしているのですよ?」
「……マジで勘弁してください。ただポロ芋を揚げるだけの料理なんですから」
そもそも、これを料理と言っていいのかすら怪しいものだ。むしろ、おやつと言ってもいいかもしれない。
俺は鍋に油を注ぎ火を点けると、パチパチと気泡ができたくらいでスライスしたポロ芋を投入していく。
揚げ色に注意を払いながら、ややこげ茶色に近づいたところでサッと上げていく。
そこへすかさず塩をパラパラと撒いていくのだが、この塩も地域によってはとても貴重な物らしい。
俺の場合は岩塩からパパっと錬金スキルで作り上げてしまったが……ってか、気づかないうちに使ってたんだよね、錬金スキル。
普通はもっと特別な工程があったり、岩塩がなかったら海に近い地域でしか作られていなかったりするらしい。
ボートピアズは内陸に位置していて海はとても遠い。ただのおやつに塩を使うなんて考えられないだろう。
「……うん、こんな感じかな」
「ポロ芋を揚げたのですか?」
「はい。簡単ですし、食感もいいので軽くつまむ程度にはいいおやつ……料理ですよ?」
「うふふ。言い直さなくてもいいんですよ。一枚いただいてもいいですか?」
「もちろんです」
揚げたてなので熱いはずなのだが、リッフェミー様は普通に一枚の揚げポロスライスをつまみ上げると口に入れた。
ザクザクという咀嚼音が上手く揚げられたという証拠にもなるので、俺は内心でホッとしている。
「……これは、美味しいですね!」
「よかった。子供のおやつにもなりますし、大人の酒のつまみにもなると思いますよ」
「この料理、私も作ってよろしいですか?」
「もちろんですよ。っていうか、料理って言えるようなものじゃないですし」
「いえいえ! 手軽に美味しいものというのはとても貴重なレシピなんです。ポロ芋は煮る以外に調理方法がないと思っていたので、揚げるという発想はとても嬉しいです!」
俺のいた故郷では普通にやっていた調理方法なのだが、妖精族や魔族ではあまり浸透していなかったのだろうか。
そうなると、人族で揚げ物料理を知らなかったルリエは相当に料理が下手だという事になってしまう。
……まあ、その辺はあまり考えないでおこう。次、作らせてみてもいいかも。
そんなこんなで、俺たちは出来上がった料理を食堂まで持っていき堪能した。
リッフェミー様の料理はどれも美味であり、俺が普段作っている料理はやはり普通である事が十分分かった。
だが、揚げポロスライスもグラインザ様からは意外と好評であり、料理勝負? も何故か引き分けという事になってしまった。
……単に酒が進んだだけの話だと思うんだがな。
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