宿屋は見つかりましたが……
……さて、非常に困った。
いや、まあ、これも俺の怠慢が招いた結果なのだが、それにしても困ってしまう。
宿屋は見つかったのだ。うん、見つかった。
しかし、結構な数の宿屋をはしごしてようやく見つけたのである、文句は言えない。
というのも、ボートピアズでは今日から魔獣の間引きが行われるようで、多くの冒険者が集まっている。
そのせいもあり、多くの宿屋が満室になっていたのだ。
「まあまあ。家でも最初は一緒だったんだし、気にしないでよね」
「……いや、その時はリリルとツヴァイルもいたじゃないか」
気にしないと言っているヴィリエルだが、お前がそうでも俺は気になるんだよ!
「仕方ないじゃないのよ。どこも満室で、一部屋しか空いてなかったんだから」
そう、一部屋しか空いてなかった。
つまり、俺は今日、ヴィリエルと一つの部屋で寝ることになる。
しかも、家の時とは違うことがもう一つある。……大きな違いが。
「お、俺は床で寝るからな!」
「えぇー? 別に一緒のベッドでも構わないわよ?」
そう、ベッドが一つしかないのだ!
ソファがあればと思っていたが、安宿だったこともあり、部屋にあるのは一人掛けのイスが一脚のみ。これでは横になることはできない。
家では俺がベッドを作って、それぞれのベッドで眠っていたのだから、これはさすがに無理がある。
「お前……俺が正常な男だってこと、忘れてないか?」
「あら? 私のこと、そんな風に見ていたの?」
「ちがっ! ……はぁ。もういいよ」
ここでヴィリエルと言い争っていても話が進まない。
俺は店主に頼み込んで布団を一式借りれないか聞いてみようと部屋を出た。しかし――
「いやいや、お前さん。それはないだろう? あんなべっぴんさんを連れているんだからよ!」
とかなんとか言って、豪快に笑いながら追い返されてしまった。
そういう関係ではないと言っても関係ない。
「……マジか。俺、直床で寝るのか」
部屋に戻ってきた俺は、ボロボロの床に目を向ける。
ここに横になったとして、虫に刺されるのではないだろうか。翌朝には体中が痒くなっているのではないだろうか。
「だーかーらー! 私は構わないって言ってるでしょうが!」
「俺も言ってるだろう! 正常な男なんだって!」
「だったら襲ってみなさいよ!」
「ぐぬっ!?」
お前、女性がそんなことを言うなよな!
「……はぁ。分かったよ」
「えっ、襲うの?」
「そこじゃねえよ! 俺も一緒のベッドで、いいんだな?」
床で寝るのを我慢できないわけではないが、布団がないのであれば正直遠慮したい。
俺が自制できれば問題ないのだ……うん、問題ないのだ。
「……本当に……いいのね?」
……って、意味深に上目遣いで甘えたような声を出すんじゃねえよ!
「お前、わざとやってるだろ!」
「あっ、バレた?」
「ぜっっっったいに、襲わないからな! 覚えてろよ!!」
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ん? 俺、何を言ってるんだ?
「それは、強気に言うところなの?」
「……う、うるさい」
なんだか、ちょっと恥ずかしくなってしまったじゃないか。
「……とりあえず、飯に行くか?」
「……そうね」
ん? どうしてヴィリエルが恥ずかしそうなんだ?
お前は狙ってやってただろうに。まーた俺を騙そうとしているのか?
「ちなみに、ヴィリエルのオススメはあるか?」
「そうねぇ……ちなみに予算は?」
「まだ10000Dはあるな」
「十分ね……それじゃあ、ちょっと贅沢してもいいかしら?」
お金はあって困らないが、ヴィリエルには日ごろからお世話になっているし、たまにしか来ない大きな都市である。
「……いいよ。俺も美味い飯を食べたいしな」
「ご飯もそうだけど、お酒が美味しいのよ」
「……俺、まだ15歳で飲めないんですけど?」
「ご飯も美味しいから、気にしないで」
自分は飲むつもりかよ、おい!
……でもまあ、ブレイレッジでは酒の類は用意してなかったし、楽しみたいのも分かるかな
「……分かったよ」
「ありがとう、スレイ」
……おぉっと、いかん。お礼を口にする笑顔に、不覚にも見惚れてしまった。
ん? ちょっと待て。
「……ちなみに、ヴィリエルが酔ったらどうなるんだ?」
「うふふ。それは、酔ってからのお楽しみよ?」
だから、上目遣いで見るなって! 今のは、絶対に天然だろうに!!
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