全てを伝えました
そして、俺は辺境の地でスローライフを送りたいこと、すでにブレイレッジという集落を造ったことを告げる。
「シェリカさんには、その村に移住して、俺たちを助けてほしいって、お願いしに来たんだ」
「……へっ? 私が、移住?」
「それに、スウェインはNの人たちも一緒にって考えているわ」
ずっと驚きっぱなしの表情だったシェリカさんだが、Nという言葉が飛び出すと、咄嗟に表情が引き締まった。
「……それは本当ですか、スウェイン様?」
「あぁ。実際に、ルリエが連れてきたのも職業ランクがNの人たちだよ」
「そこでは、Nの人たちが、不自由なく暮らせるんですか?」
「もちろん。……もし俺のことを信用できないとしても、ルリエのことは信用できるんじゃないかな?」
あまりに突然のことである。信じられないと思われても仕方がない。
ならば、信じる相手を変えればいいのだ。
「そ、そんなわけではありません! ただ、あまりに突飛な話だったので、混乱しているだけです」
……うーん、そう言われると、これから話す予定の内容がさらに話し難くなるんだが。
「あー、えっと。シェリカさんには、あと一つ伝えないといけないことがあるんだ」
「……まだあるんですか? ここまできたら、ちょっとのことでは驚きませんよ?」
驚きを通り越して、苦笑するまでになったのか。
なら、大丈夫かな?
「そのブレイレッジだけど、人族だけじゃなくて、魔族も暮らしているんだ」
「……はい?」
「一応、魔王の娘もいるから、魔族と問題になることはないから安心してほしい」
「…………はい?」
お、同じ相づちを打たれてしまった。
「大丈夫か、シェリカ?」
「……大丈夫に見えますか、ルリエ様?」
「ごめん、見えないわ」
最終的にはテーブルに突っ伏してしまったシェリカさんに申し訳なく思ったが、納得してもらうには全てを伝えなければならないので致し方ない。
「……それって、勇者が治める集落で、剣聖と魔王の娘が補佐をしているってこと、ですよね?」
「そうなるかな?」
「……スウェイン様は、Nの方々を蔑ろにしませんか?」
「俺が元Nだったのは説明しただろう? 絶対にしないし、俺の手の届く範囲なら、守ってみせる」
「魔族も心配ないんですね?」
「魔族と言っても、彼らも魔界で蔑ろにされてしまった職業ランクRの者たちだ。同じ境遇同士、仲良くやってるよ」
シェリカさんの質問に答えると、突っ伏していた体を起こし、真剣な眼差しをこちらに向ける。
「……人界では、Nが一番安全に暮らせる集落ってことですか」
「そうなるわね」
「いや、他にもきっとあるだろうけどさ」
「いいえ、ないと思います。人界のNは、人を人とは思っていませんからね」
少し疲れたような表情をしているものの、その雰囲気には何か決意のようなものが漂っていた。
「……分かりました。ですが、一つ条件があります」
「教会の子供たち、ですね?」
「ルリエ様から聞いていたのですね」
「じゃないと、スウェインも私も話を持ってこないわよ」
苦笑するシェリカさんに対しては、俺は真摯に答える。
「もちろん、子供たちも受け入れます。だけど、そのためにはやっぱり、シェリカさんの力が必要なんですよ」
「私やスウェインが話をしても、怖がられるだけだからね」
「それに、教会には神父様もいるだろうから、信用のあるシェリカさんが提案するのが一番だろうからな」
「そのつもりです」
この時のシェリカさんは、とても嬉しそうに笑ってくれた。
子供たちのことが、そこまで心配だったなんて。
言葉は悪いかもしれないが、子供とはいえ他人である。親と知り合いとかでもなく、全くの赤の他人。
それでも子供たちのことを第一に考えることができるシェリカさんに、俺は感動すら覚えていた。
仮に、俺が職業ランクRだったとして、同じように行動できただろうか。……絶対に無理だと断言できる。
それだけのことを、シェリカさんは考えて、行動しているのだ。
「シェリカさんは、すごいですね」
「私が? ううん、私はすごくないわ。ただ、子供がかわいいだけだもの。さて! それじゃあ、善は急げよね!」
そう口にしながら立ち上がったシェリカさんは、そのまま教会に向かうと言ってきた。
「えっ! あの、仕事は大丈夫なんですか?」
「こんな仕事、すぐにでも退職届を叩きつけてやるわ!」
ん? いやいや、ルリエからの情報と全くの違うんだけど?
「獣魔専用窓口、気に入ってるんじゃ?」
「あんな理不尽を言われたのよ? 嫌になるに決まってるじゃないのよ! それに、そっちにはツヴァイルがいるから、モフモフ充電は問題ないわ!」
「……モ、モフモフ充電って」
――その後、冒険者ギルドではシェリカさんの後釜をどうするかで問題が起きていたことは、俺の知らないところでの話である。
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