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一番の本題へ向かいます

 予想外の収入となり懐はウハウハである。

 だが、まだ本当の目的を終わらせていないので、俺たちはその足で冒険者ギルドへと向かう。

 前回来た時と同様に冒険者の往来が激しい。

 正直、俺は苦手な場所である。


「シェリカさんは……いたいた」

「ん? ちょっと待って、スウェイン」

「どうしたんだ?」


 さっさと用事を終わらせてゆっくりしたいんだが……あー、うん、なるほどね。


「何か、問題が起きてるっぽいな」

「獣魔契約の窓口で、何があったのかしら?」


 俺たちは窓際からこっそりと近づき、耳を澄ませる。


「だからあっ! てめえの獣魔契約が不十分で、獣魔が逃げちまったんだよ!」

「獣魔契約に十分も不十分もありません!」

「なら、どうして獣魔契約が解除されたんだ!」

「獣魔契約の破棄は主である者にしかできません! もしくは、その獣魔が死んだ時です!」

「てめえ、俺様が破棄したとでも言いたいのかよ!」


 ……うーん、これはどうなんだろうか。

 獣魔契約が主にしか解除できないということは、シェリカさんが言っているように、男が解除したとしか考えられない。

 他に方法があるのかは分からないけど、男はそうじゃないと言っている。

 獣魔契約の不十分と言っているが、何がどう不十分だったのかも分からないのだ。


「とにかく! 獣魔が逃げたんだから、そっちで補償しろよ!」

「ですから、こちらでは補償などできません!」

「なら、てめえが補償しろよ!」

「できません!」

「てめえ、ぶっ殺されてえのか!」


 おっと、これは本格的にヤバくなりそうだ。男が腰の剣に手を掛けたぞ。


「行くか、ヴィリエル……って、あれ?」


 俺の横にいたはずのヴィリエルがいなくなっている。

 ……えっ、ということは?


「いい加減にしなさい!」

「誰だあっ!」

「ヴィ、ヴィリエルさん!」


 ……うん、飛び出してたよねー。まあ、行くタイミングだったし、いいのか。


「俺もいるよー」

「スレイさんまで!」


 心なしか、ヴィリエルと俺を見つけたシェリカさんの表情がホッとしているように見える。


「部外者は引っ込んでろ!」

「あなた、獣魔に関して文句を言っているようだけど……知らないの?」

「……何がだよ?」

「組紐のことよ」


 ヴィリエルの言葉に、シェリカさんはハッとした表情を浮かべている。

 ……組紐? これ、何かあるのか?


「あなた、組紐はどうしたのかしら?」

「組紐だあ? そんなもん、どっかに落としたに決まってるだろうが!」

「組紐が残っていない、それもあなたは落としたと言ったわね? それがどういうことか、分からないのかしら?」


 ……分からない、いったいどういうことなんだ! 教えてくれ、ヴィリエル名探偵!


「それは――獣魔が殺された、ということよ」


 そういえば、シェリカさんもさっき言ってたな。獣魔契約の破棄は主が破棄するか、獣魔が死んだ時だって。


「組紐を落としたということは、切れたということ。そして、組紐が切れる時の条件を、あなたは知っている?」

「そ、そんなもん、知るかよ!」

「それはね――主が獣魔を殺した時だけなのよ!」


 こ、この組紐に、そんな効果があったなんて!


「……なんであんたが驚いているのよ、スレイ」

「……えっと、ごめん」


 ごめんなさい。だから、横目で睨まないでください。


「そ、そんなもん、魔獣と戦闘中に切れちまったんだよ!」

「魔獣と戦闘中に?」

「そうだ! あんな組紐、邪魔で仕方ねえんだよ!」

「えっ? これ、ピッタリくっつくし、邪魔になんてならないと思うが?」


 そこで俺は左腕を前に出して組紐を見せる。

 魔獣と戦った時も、賢者と戦った時も、全く邪魔になんてならなかった。それどころか、付けていることすら忘れるくらいピッタリなんだが。


「俺様は繊細なんだよ!」

「「……ええぇぇぇぇ~?」」

「だ、黙れ!」


 繊細な人間が怒声をあげるかね?


「話を戻すけど、この組紐は戦闘中に切れるような柔な作りにはなってないのよ」

「嘘を言うな!」

「……試してみる? スレイ、左腕を貸してちょうだい」

「んあ? いいけど、何をするんだ?」

「左腕を前に出して、そのまま動かないでね?」

「お、おう」


 俺が言われた通りの体勢でジッとしていると、ヴィリエルは男に近づいていき、腰の剣に手を伸ばした。そして――


 ――ヒュン!


「どわあっ!?」


 鋭く振り抜かれた剣の切っ先が組紐に引っかかり、左腕が下に引っ張られた。

 何とか踏ん張りこけることはなかったが、めっちゃ危ないことをしてくれたもんだな!


「お、おい! やるなら一言あってもいいだろうが!」

「だって、これくらい不意打ちじゃないと文句を言われそうじゃないの」


 だからって、俺の心の準備もあるだろうが! ってか、腕が斬られる可能性もあったんですけど!?


「これで分かったかしら? あなたが使ってる程度の剣では切れない。魔獣の爪が引っ掛かったとしたら、あなたの腕が持っていかれたはずよ?」

「そ、そんなわけあるか! なら、やっぱり契約が不十分だったんだ!」

「組紐は、契約前のものであっても同様の強度を持っています!」


 そこへ、シェリカさんが白と黒、二色の未使用の組紐を持ってきた。

 それを地面に置くと、ヴィリエルが迷うことなく剣を振り下ろす。

 切っ先が地面をわずかに削ったものの、組紐はまたも無傷だった。


「……さあ、他に言い訳はあるのかしら? それとも、自分の罪を認めるのかしら?」

「だ、黙れ! くそが、胸糞悪いぜ!」


 男はヴィリエルの手から剣を乱暴に取ると、大股でその場から去っていった。

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