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荒れる賢者

 全てを焼き尽くそうという魂胆か、放たれたのは賢者を中心に周囲へ広がりを見せる円形の炎。

 これが炎の壁のように高く燃え上がっているので、上からも下からも近づけない。

 ならばと俺はレッドスターを抜いて炎の壁を斬り裂いた。


「ははっ! ルリエもツヴァイルも同じ考えか!」


 俺は賢者の右から迫っており、ルリエが左、ツヴァイルが正面。

 ルリエは俺と同じく大剣で炎の壁を斬り裂いており、ツヴァイルはブレスを吐き出し破壊と共に攻撃も担っていた。


「邪魔よ! 害獣の分際で!」


 五色の宝玉が嵌められた杖で地面を突くと、可視化された魔力の壁がブレスを弾き飛ばした。

 しかし、神獣を害獣呼ばわりかよ。賢者って、バカなのか?

 神獣とは神に仕えていた獣と言われており、特に獣人はシルクが言っていたように神獣を崇めている。

 しかし、獣人だけでなく人族ならば誰しもが神聖視している存在だ。


「知らないだけかもしれないが、だからって俺の仲間を害獣呼ばわりとか、ふざけんなよ!」


 こちとら、勇者として魔法だって使えるんだ。

 賢者には及ばないかもしれないが、剣術スキルを織り交ぜれば対抗できるはず!


「ウッドプリズン!」

「私に魔法とは、甘すぎるわねええええっ!」

「うおっ!?」


 まさか、自分の放った魔法が跳ね返されるとは思わなかったぞ!

 ウッドプリズンで蔦の檻に拘束し、大きさを徐々に狭めようとしたのだが、まさか俺が檻に閉じ込められるとは!


「ちいっ! 邪魔だ!」

「蔦もあんたもそのまま燃えてしまいなさい! ヘルテンズフレイム!」


 蔦を斬っている俺の周囲に十本の炎の柱が顕現すると、隣同士の柱が炎でつながる。

 先ほどは賢者を中心に広がりを見せた炎の壁だが、今度は中心にいる俺めがけて壁を狭めてきた。


「くそっ! 聖剣! 魔剣! ……あー、もう! 連続使用はできないのかよ!」


 蔦を斬りながら悪態をついていると、一つの柱が破壊されて炎の壁が薄くなる。


「ツヴァイルか! でも……さらに狭まっちまったよおっ!」


 炎の壁は薄くなったが、円を描いていた壁が破壊された一柱の分、短くなったので円が辺になってしまった。

 焦っている俺に気づいていないのか、さらに隣の柱が破壊される。

 これ以上破壊されると、蔦を排除する前に炎の壁に触れてしまう。そう思っていると、柱の破壊は収まった。


「……よし、脱出完了!」


 レッドスターを構え直した俺は薄くなった炎の壁を斬り裂いてヘルテンズフレイムからも脱出した。

 ツヴァイルは分かっていたのかもしれない。二つまでなら破壊できることと、この薄さなら俺が斬り裂けることを。

 気を取り直して賢者を斬ろうと姿を視界に捉えた時、俺は予想外の状況を目の当たりにした。


「あははっ! これで終わりよ、ルリエ!」

「……ごぼ……ごばば……!」

「グルオオオオッ!」

「あら、ブレスはもう……あら? 生きていたのね、あなた」


 ルリエが巨大な水泡に捕らわれて呼吸ができず、ツヴァイルは四肢が地面と同化しており、その場から動けなくなっていた。

 ……ツヴァイル。首を動かして、俺を助けてくれたんだな。


「……てめえ、何してくれてんだあっ!」

「こいつらは動けないからねぇ……いいわ、邪魔なあなたから殺してあげる!」


 杖を軽く横に薙ぐと、無数の炎の槍が顕現して襲い掛かってきた。

 賢者の得意魔法は火属性か? なら、こっちは水魔法で……って、ダメか!


「これで、どうだあっ!」

「あら、魔法は使わないのかしら? せっかく、私の支配下に置こうと思ったのに」


 ウッドプリズンが跳ね返された時、単純に跳ね返しているだけじゃないと思っていた。

 俺の支配下にある魔法であれば、即座に魔法自体を解除することができたはずだが、それができなかった。

 ならば、完全に魔法の支配権を奪われていたと考えるのが妥当なのだ。

 あのタイミングで水魔法を放っていたら、俺もルリエと同じ状況に陥っていた可能性が高かったな。

 先行する炎の槍をレッドスターで斬り捨て、時間差で迫ってきた槍は回避する。

 徐々に間合いを詰めているが、そう上手くはいかないか!


「うふふ、それならこれでどうかしら!」

「うおっ! な、なんだ、地面が!?」


 俺の足元が陥没し、足場が悪くなる。


「これで避けられないでしょう! さっさと死んでちょうだいな! 私の復讐の邪魔をするあんたは、目障りなのよ!」


 今度は炎の槍に加えて、かまいたちが襲い掛かってくる。

 全てを迎撃、回避することはできずにこの身を傷つける。


「があっ! ……い、いてえ、なぁ」

「あら? あなた、痛いのが嫌なの? あはは! それでよく私に挑んできたこと!」


 こちとら、スローライフを守る為に戦っているだけなんだよ。痛いのに慣れるとか、絶対に嫌だからな!


「ツヴァイル!」

「グルオオオオン!」


 賢者の隙を突くには、今はツヴァイルに頼るしかない!

 吐き出されたブレスは賢者へ真っすぐに迫った――しかし、またしても魔力の壁に弾かれてしまう。


「仕方ないわね、害獣」

「グルオオ……ォォ…………」

「そんな……ツヴァイル!」


 首を動かすこともできなくなっていたツヴァイルは、ついに全身が地面と同化して土像と化してしまった。


「うふふ、これで本当に終わ――」

「お前がな、エレーナ!」


 狙い通り。次に頼りになるのはお前しかいないぞ――ルリエ!

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