何やらジーっと見られています
街道に出てすぐに魔獣と遭遇したものの、以降は順調に道程を消化している。
魔獣の気配はどこにもなく、お昼休憩を挟んでからも遭遇はなし。
俺たちの実力を早くみたいのか、ヴィリエルだけが何故かソワソワしていた。
「順調すぎじゃないかしら!」
「いや、順調なのは良いことだろう」
「そうだけど、そうじゃないのよ!」
「……いや、意味が分からん」
嘆息しながらそう口にしていると、ヴィリエルの願いが届いたのかは分からないが魔獣の気配が現れた。
「私は手を出さないからね! スレイとリリルさんで倒してよね!」
「仕方ないか。それじゃあ、どっちから行く?」
「私から行こうかしら」
「ガウガウッ!」
リリルからとなりそうだったが、ツヴァイルがまさかの立候補である。
「……それじゃあ、ツヴァイルからで」
「……そうね。よろしくね、ツヴァイル」
「ガウッ!」
「えっ、ちょっと、どうしてそうなるのよ!」
ヴィリエルとしても予想外だったようで声をあげていたが、すでにツヴァイルはブラックウルフめがけて駆け出しているので止めようがない。
というか、すぐに決着も付くだろう。
助けた時のツヴァイルは怪我もしていたし、相手は耐久力のあるオークだった。
だが、今回は似たような姿形をしているブラックウルフが相手だ。
大きさもツヴァイルが上だし、何よりその機敏さは攻撃力の低さを補って余りある。
単純にオークとの相性が悪かっただけで、相性さえ悪くなければツヴァイルが勝てない相手はそうそう現れないだろう。
「ガウアッ!」
『ギャンッ!』
「ガルアアアアッ!」
『ギャギャ――!』
ブラックウルフは二匹いたのだが、一匹目は鋭い爪で首を落とし、二匹目は口から放たれたブレスによって骨すらも残さずに焼き尽くしてしまう。
……いや、ブレスに関しては俺も初めて見たぞ。そんな攻撃もあったのかよ。
「ガウガウッ!」
「お、おぉぅ、よくやったな」
「クウゥゥン!」
恐ろしい攻撃を目にしたものの、こうして甘えてくる姿を見るとまだまだ子供だなと思ってしまう。
……ツヴァイルって、子供なのだろうか。
「ちょっと、ちょっとちょっと! この獣魔、すごく強いじゃないのよ!」
「まあ、ツヴァイルだからな!」
「ツヴァイルは強いのよ!」
「ガウッ!」
俺だけではなく、何故かリリルまで得意気になっている。
しかし、ヴィリエルの興奮は収まらないようでツヴァイルに駆け寄ると頬ずりしながら撫でまわしてきた。
「珍しい毛並みだけど、元はどんな魔獣だったの? あれだけの攻撃ができるってことは、相当強い個体だったのね。……あれ? でもこれ、獣魔契約の組紐がよんしょ――」
「あ、あーっ! また魔獣の気配がするなー! こ、今度こそ、リリルが倒してくれよなー!」
組紐については話題にしないでくれ! もう遅いかもしれないけど!
「またブラックウルフね。というか、街道から逸れてないのにどうしてこうもたくさん出てくるのかしら」
「……ボートピアズからも離れたからね。それに、最近の冒険者は実入りの良い依頼を求めて王都の方に移ってるから、この辺りの魔獣が狩られていないのかもしれないわね」
リリルの疑問に答えたのはヴィリエルだ。
話題が変わってくれたのはありがたいが、魔獣狩りが行われていないというのは大問題じゃないのかな。
「とりあえず、目の前に現れた魔獣は狩っときましょうか」
そう口にしたリリルは愛杖であるメタンフォレストを構えて雷魔法を放つ。
「サンダーレイ」
高速の雷が杖先から放たれると、一秒と掛からずに着弾してブラックウルフが黒焦げになる。
彼我の距離は50メートル以上離れており、速度だけではなくその射程の長さにも驚かされてしまう。
『グ、グルアアアアッ!』
これで逃げてくれればいいものの、ブラックウルフは仲間が殺されて興奮したのか逆に襲い掛かってきた。
その姿を見たリリルは杖を掲げると、今度は火魔法を放った。
「ファイアボール」
顕現したのは三つの火の玉。
どれも顔ほどの大きさをしており、その全てが異なる軌道を描きながら迫るブラックウルフへと殺到する。
一発目を回避――したかと思えば、追尾弾のようで弧を描いて戻ってきた。
ブラックウルフも予想外だったのか、驚きのあまりに残り二発への注意が散漫となり、結果として三つ全ての火の玉が直撃した。
「……終わりよ」
「……ねえ、リリルさん。あなた、本当にRの二重魔法師なの?」
「もちろん。ヴィリエルさんも見ていたでしょう?」
「……そうね。それも、そうか」
本当はURの宵闇の魔法師です。とは言えないので、俺は何も言わずに考え込んでいるヴィリエルの姿を見つめる。
「……よし、次はスレイの番だからね!」
「やっぱり、そうなるのか?」
まあ、俺としてはレッドスターの試し切りを早くやりたいので好都合である。
そして、幸か不幸か、次に遭遇した魔獣はブラックウルフではなく、もっと厄介な魔獣だった。
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