宿屋……宿屋……
シルクと別れてから、俺はどうするべきか考え始めた。
というのも、装備が出来上がるまでに二日は掛かると言われてしまったのだ。
「一泊だけのつもりだったけど、二泊しないといけないのかよ」
「なんだったら私とツヴァイルだけで遊びに行くけど?」
「ガウッ!」
俺だけのけ者にされている……いや、誰かにバレたくないと言っているのは俺なのだから仕方ないんだけど、なんだか寂しい。
「……と、とりあえず宿屋を探そう! そうだ、宿屋を確保するぞ!」
「あっ、開き直ったわね」
「ガウ」
う、うるさいな! 俺だって本当は楽しみたいんだぞ! だけど、元Nの俺が都市の中を歩いているなんて知られたら大問題になるんだから仕方ないじゃないか!
「いっそのこと、偽装スキルで見た目を変えちゃったらいいのに」
「……えっ?」
それは、予想外の提案だった。
だが、確かにそうすれば俺が俺だとバレることはなく、全くの別人として都市の中を動くことができるじゃないか!
「よく言ってくれた、リリル!」
「きゃあ! ちょっと、恥ずかしいから離れてよ!」
「ガウガウッ!」
俺は興奮のあまりに外だということを忘れてリリルに抱きついてしまい、その周りをツヴァイルがクルクルと歩き回っている。
もちろん注目されることとなり、俺はリリルの言葉を受け慌てて体を離した。
「ご、ごめん!」
「いえ、いいんだけど……そ、そうだ! もし偽装スキルを使うなら、宿屋に入る前に見た目を変えないといけないわね!」
「そうなのか?」
「宿屋を借りた時と、出て行く時の姿が違ったら怪しまれるでしょう?」
言われてみればそれもそうだ。
ならば、どこか路地にでも入って見た目を変えないといけないな。
ということで、俺たちは大通りから外れて路地に入ると、周囲に誰もいないことを確認して自らに鑑定スキルを発動すると……あー、うん、やっぱりあったよ。
「偽装スキル、あったね」
「勇者っていうのは本当に便利ね」
「ガウガウ」
ここまできたら勇者って全てのスキルを持っているんじゃないかと疑ってしまう。
まあ、今のところは役に立つ全てを持っているのでありがたいことに変わりはないんだがな。
「そんじゃまあ、髪の色から変えてみるか」
俺は黒髪を偽装スキルで金髪に変えてみる。
……で、できたのか?
「リリル、どうだ?」
「金髪になったけど、顏が変わってないからスウェインだわ」
「と、とりあえず試しにやってみただけだよ!」
いきなり顔を変えるのは勇気がいるじゃないか!
……よし、やるぞ。
目元は細くして、鼻はやや高く、口元はそのままでもいいか。
体型はやせ型、外から来たんだから細マッチョ的にしてみよう。
「……さて、これでどうかな?」
「おぉ、これならスウェインってバレないと思うわ」
「ガウガウッ!」
偽装スキル、上手くいったようだ!
「これでスウェインも自由に動き回れるし、私たちも気兼ねなく遊ぶことができるわ!」
「……もしかして、そっちが目的か?」
「当然じゃない!」
「ガウッ!」
リリルはともかく、お前までなんで返事するかな、ツヴァイル!
「よし、それじゃあ宿屋だ、宿屋に向かうぞ!」
「はいはーい!」
路地に入った方向とは逆側から大通りに出ると、俺たちは宿屋を探しに向かった。
しかし、宿屋探しは意外にも難航してしまう。
その理由は――ツヴァイルにあった。
最初に入った宿屋の主人曰く、未契約の魔獣を泊める宿屋はないだろうと言われてしまったからだ。
「うーん……リリル、契約ってなんだ?」
「いくら私でも、そこまでは知らないわよ」
「クウウゥゥン」
これは、宿屋探しの前に情報を仕入れることから始めた方がいいかもしれない。その時に契約について聞ければありがたいか。
もし契約のことが分からなかったり、分かったとしても契約できないのであれば、野宿も考えなければならない。
「えぇーっ! 野宿は嫌よ、野宿は!」
「でも、ツヴァイルをのけ者にするわけにはいかないだろう」
「それはそうだけど……よし! それじゃあ、さっさと情報を集めるわよ! 契約のことも含めてね!」
「ガウッ!」
宿屋探しを中断した俺たちは、その足で情報を仕入れるには最も適した場所――冒険者ギルドへと足を運んだ。
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