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ドキドキの夜でした

 その日の夜、俺の心臓は早鐘を打っていた。

 ベッドを離しているとはいえ、やはり女性と二人というのは精神衛生上良くない気がする。


「……ガァァ……クゥゥ……」


 ……うん、ツヴァイルもいるけどさ、そこはほら、神獣だし?

 いやいや、違う違う! 寝息が聞こえたからって思考を停止させるんじゃない!


「……スウェイン、起きてるの?」

「ひゃい!? ……ごめん、起こしちゃったか?」


 俺が首を何度も横に振っていたからか、リリルがこちらを向いて声を掛けてきた。


「ううん、私も眠れないの。……その、本当に、ありがとね」

「いや、俺は俺にできることをしただけだよ」


 そう、たまたまリリルの近くにいて、たまたま助けられる力があっただけ。

 近くにいなければ助けられなかったし、いたとしてもNのままだったら同じく助けられなかった。


「しかし、すごい偶然もあるもんだよな。昨日勇者になったばっかりで、こうしてリリルと出会えたんだから」

「偶然、なのかな」

「そりゃそうだろう。言っておくが、俺は野垂れ死ぬ直前だったんだからな? あのまま何もなかったら、間違いなく死んでたね」

「うふふ、どうしてそんなことを自信満々に言っちゃうのかしら」

「それは俺が元Nだからだ」


 Nになった人族の大半は卑屈になっていく。

 同じ人族として見てもらえないし、同じ扱いを受けられないのだから当然と言えば当然なのだが、それが魔族から見ると不思議でならないようだ。


「家族すら見放すって、どうしてそんなことをするのかしら。お腹を痛めて生んだ大事な子供なのに」

「……家族にNが一人でもいると、その家族全員がNだって非難を浴びるんだよ。あの親は本当はNなんじゃないのかとか、Nが生まれたからあの家族は滅びるぞ、だとかね」


 だから家族ですらNの子供を見放してしまう。罵られてしまう。その存在をなかったことにしてしまう。

 Nを村から追い出すということは、野生の動物に殺されてもおかしくはないし、魔獣と遭遇すればほぼ確定の死が待っている。

 実際に俺の親がどういう感情を持っていたのかは分からない。だけどあの瞳が、俺を見つめる濁ったようなあの瞳が全てを物語っていたように思う。


「Nが安心して暮らしていけるような世界。そんな世界であれば、俺もちょっとは勇者として何かしようと思ったかもしれないな」

「そんな世界をスウェインが作ったらどうかしら?」

「なんだ、誘導しているつもりか? 言っておくが、俺の考えは変わらないからな」

「分かってるわよ。でも、そういった選択肢もあるってことを伝えたかっただけ」


 選択肢ねぇ。

 正直、俺がその選択肢を選ぶとは到底思えない。

 何故なら、いつかは勇者という職業を取り上げられるんじゃないかという考えが心のどこかでちらついてしまうからだ。


「俺は、俺の手の届く範囲でしか動けない。そうじゃないと、Nに戻った時が怖いからな」

「……それでいいのよ」

「えっ?」

「スウェインができる範囲で、手の届く範囲で選択していけばいいと思うわ。私もその範囲に入っていたんでしょう?」

「……まあ、そういうことになるのかな」


 なんだろう、はっきりとそれでいいと言ってもらえると心がすっきりした気分になっていく。

 これは……あぁ、そうか、そういうことか。


「……認めてもらうって、こんなにも嬉しいことだったんだな」


 職業ランクが判明する前までは普通に行われていた行動が、Nと分かった途端にどこか遠くへ行ってしまっていた。

 俺という存在が認められなくなってからたった数日しか経っていないにもかかわらず、もう何年も昔から認められていなかったんじゃないかと思えていたんだ。


「人族はどうか分からないけど、魔族である私はあなたのことを認めているわ。ううん、尊敬すらしている」

「それは言い過ぎだ」

「そうかしら。助けてくれた相手を尊敬するのは当然だと思うけど?」

「そう思うなら俺を手のひらで転がさないでくれ」

「気のせいじゃないかしら?」

「どうだか」


 俺が冗談っぽく言うと、リリルはクスクスと笑ってくれた。


「なんだか不思議だわ。今日初めて会っただけなのに、スウェインのことを信頼できるもの」

「……それは、俺がリリルを襲わないという信頼か?」

「ち、違うわよ! ……この人にはなんでも話せるっている信頼、かな」

「それは俺が勇者だからか?」

「違うと思う。だって、前の勇者は性格が最悪だって聞いたもの。そんな人だったら絶対に信頼なんてできないわ」


 前勇者の行いは辺境の村で暮らしていた俺の耳にも届いていた。

 正直、そんな勇者が救った人界でNになっていたらと考えただけでもゾッとする。


「スウェインという人族だから、信頼できるんだと思うわ」

「俺はそんな大層な人族じゃないんだけどな」

「見ず知らずの魔族を助けただけじゃなく、同じ屋根の下で寝てるのに手を出さないってことが信頼につながるわよ?」

「……どうせ俺はヘタレですよ」


 ちょっとばかし拗ねてみたのだが、リリルには冗談と捉えられたらしい。


「うふふ、スウェインって面白いのね」

「……何が面白いんだか」


 そう呟いて天井を見つめる。

 職業ランクがNだと聞いた時には絶望しかなかったのだが、今はこうして誰かと話ながら夜を明かすことができている。

 世間的にみると小さな幸せかもしれないが、俺にとってはとても大きな幸せだ。


「……なあ、リリル」

「……」

「……リリル?」

「……すぅー……すぅー……」

「……眠ったか」


 こちらを向きながら目を閉じているその寝顔は、美人さんではあるもののどこか幼さを感じてしまう。

 父親である魔王が深手を負って不安もあるだろう、もしかしたら今日にいたるまではゆっくり眠ることもできなかったんじゃないだろうか。


「……手の届く範囲で、か」


 勇者なんて荷が重すぎる。そう思ってしまうのは仕方がないと割り切っている。

 だけど、手の届く範囲で助けられる者がいるなら、少しばかりは動いてみてもいいかもしれない。

 そんなことを考えていると、俺もいつの間にか眠りに落ちていた。

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