創始りの神話1
はじめ、世界には闇があった。
そこにはただ虚無が広がり、時間はまだ存在しなかった。
やがて闇が凝り、独りの精霊を産み出した。
闇と夜の主人、美しい射干玉の乙女を。
創まりの女王、その髪は黒く、その瞳はさらに暗い。
だがその瞳には未だ視ぬ星の輝きがあった。
乙女が瞬くとその輝きは星々となり、乙女の髪を彩った。
その光を集めて乙女は双つの月を作った。
月たちは闇だけがあった世界を優しく照らした。
月の光を受け、乙女の貌は冴えざえと白く。
手足の先で星が躍り、綺羅綺羅と爪先に纏わった。
乙女が闇を渉ると、その軌跡が大地となった。
そして、乙女は望んだ。
己れの対となる存在を。
乙女の祈りは泪となり、涙が凝って光が産まれた。
光と昼の王、輝く太陽の青年が。
その髪は燃えあがるような黄金、その瞳は目映ゆく蒼く、乙女への愛に溢れていた。
「愛しいひと、我が麗しの半身よ。貴女に名を贈ろう。夜の女王、イーファライラ。」
「ああ、エーオルラーダム、愛しい半身。わたくしは永遠に貴方のものです。」
乙女の想いに青年の瞳は喜びに輝き、その溢れでる輝きから太陽が産まれた。
眩しい太陽に照らされた世界に空が生まれ、青年の瞳を映して蒼く染まった。
「まあ、なんて美しいのでしょう!」
「いいや、貴女よりも美しいものなど存在しない。」
青年の愛を囁やく言葉から風が生まれ、乙女の微笑い声は歌となって風にのり、大地に命を吹き込んだ。
すると大地から緑が芽吹き、大地から滲み出した水は乙女の心のように深く、空を映して青く染まった。
生まれたばかりの世界で、青年の腕に抱かれて乙女は幸せに微笑う。
「大地に、わたくしの祝福を。」
乙女が優しく息を吹きかけると、大地から数多の生命が生まれた。
「ならばこの生命たちに我からの祝福を。」
青年から溢れ出た光が空と大地の間に拡がり、新しい生命たちに遍く輝く魂を与えた。
世界の創始りである。