二律背反
情報量が多すぎる。
他人から見れば、
「振られたと思っていた相手から実は振られていなかったけれど、振られたと思ったきっかけを作った方の違う女と結婚して、そいつとの間に2人の娘をこさえて幸せに暮らした。」
…と、文章にして4行程度で済んでしまう話だ。
そういう意味では情報量が多すぎると言うのは語弊がある。
気持ちの情報量が多すぎると言い換えたほうが良い。
俺は歩女が好きだったハズだ。
歩女と恋人になりたかった。
その為に厨二病ともおさらばし、歩女にふさわしい男になる為に体を鍛え、世界最強すら目指したハズだ。
ハズなのに…。
何で電話一本で諦めた??
何で歩女を信じないで宗子を信じた??
何で騙していた宗子を好きになった??
何で最終的に歩女では無く宗子を愛した??
ぐるぐるぐるぐる思考が周り、回り、廻った。
元々あった気持ちが強すぎた為か、その後の俺の人生、今鹿風谷の人生が、今鹿風谷の思考が処理落ちしてしまいそうだ。
「オエエエッ!!」
ゲボゲボゲボ
吐いた。
人間どうやら気持ちが揺らぎすぎると吐くらしい。
初めての経験。
身体疲労では無く精神疲労で吐く。
頭もガンガンする。
今すぐ叫んで舌噛み切って死にたい。
慌てふためいた表情でピエロ女が俺に駆け寄り背中をさする。
…ああ、そんなに引っ付いたらお前までゲロ塗れになっちまうぞ。
俺なんか心配するなって。
こんな軽薄で移り気でちゃらんぽらんな俺なんか。
「そんな事無いでヤンス!!アンタは!!今鹿風谷は!!」
半分涙目になりながらピエロ女が叫んだ。
「…!?」
世界から半透明になり消えかかっていた俺の心が少しだけ固まった。
「一途な想いなんてクソでヤンス!気持ちは動く!心は動く!動かずにずっと永遠に変わらないなら、そんなモノもう愛でもなんでも無い!!」
そうがなり怒鳴り散らし、ピエロ女…山田は、俺の唇をまるで殴り付けるような勢いで奪ったのだ。
「…っ!?…え!?なななな???」
思わず悲しみも困惑も何もかも通り越して驚愕の声を上げる俺。
「ちょ、おま!?いったい何を!?!?」
「歩女を好きだったアンタとも、宗子と結婚したアンタとも、もうアンタは違う人生を歩いているんでヤンスよ。なら……ならワタシとキスしたって何したって、アンタは何にも間違えてないんでヤンス。
だから…。」
山田がそこまで言った時、ものすごい衝撃音と共に魔王の間の扉が砕け散った。