恋
「結論から言うと、お前と植野歩女は結ばれない。」
…雷が落ちた気分とはこの事だろう。
失恋。
なんとなく解っていた…覚悟をしてはいたが…いざハッキリと言われてしまうと…動揺が隠せない。
心拍数が上がり足がガクガク震える。
「あ…っ。」
何か言葉を発しようとしたが上手く声が出ない。
ギュッ。
何故か山田が黙って俺の腕を掴む。
よくわからないが今はそれがとてもありがたく感じた。
「さらに言ってしまうと…。」
嘘だろ、これ以上まだ何かあるのか?
「お前と結ばれるのは、あの日電話を掛けて来てお前に植野歩女の気持ちを伝えた女… 崖野宗子だ。」
「…は?…は!?なんで??」
流石に今度は声が出た。
崖野宗子は確かに仲の良いグループ内に居る友達では有る。
歩女も含めた数人とグループデートなんかもした事は有るが、俺はこれっぽっちも興味は無い。
宗子も俺になんか興味は無いはずだ。
俺の疑問顔を観て魔王ザキミヤは再び語り出す。
「実はあの時点で宗子はお前の事が既に好きなのだよ。」
「え!?」
「後から聞いた話だとグループデートをしているうちに好きになってしまったらしい。」
「…解らん。全く知らなかった。」
「まあ宗子はもともと恋愛表現…と言うか感情表現自体が下手くそな娘だったからな。」
「…。」
「好きと言う気持ちの伝え方が解らず、しかもお前は…と言うか余は誰が観ても明らかに歩女に夢中で宗子の方など全く見ていない。」
「うぐっ…俺が植野歩女を好きなのは周りにも筒抜けだったのか…。」
「まあ解りやすからなぁ、お互い。」
「うぅ…。」
「で、自分の気持ちに押しつぶされてしまい、あの日あの時、お前に嘘の電話をして歩女との仲を裂こうとしたのだ。」
ん…?
今さらっとすごい事言わなかったか?
「ちょ、ちょっと待て?嘘の電話!?」
「そうだ。歩女に嫌われていると言うのは宗子のついた嘘だ。お前はむしろ歩女に好かれていた。」
「マジか!!」
一発逆転ホームランとはまさにこの事だ。
まさか歩女に嫌われていなかったなんて…むしろ好かれていたなんて!!
…ん、いやいや待て待て?
「ちょっと待ってくれ、、、。なら何で俺は歩女じゃなくて宗子と結ばれてるんだ?」
そんな卑劣な手段を使う女を何故俺は選んだんだ?
「まあ嘘をついていたのが発覚したのは数年後だったからな。既にその時には失恋の悲しみを癒してずっと側で支えてくれた宗子に情が移りまくっていて騙された事なんかどうでも良い位に愛していたのだよ。」
「なんだそりゃ!?」
「まあ童貞のガキには解らない大人の恋愛感情もあるって事だ。」
「ぐぬぅ」
「ちなみにお前と宗子は数年の同棲生活を経て結婚し、娘2人をこさえて幸せに暮らしましたとさ。ちゃんちゃん。」
「うぎゃああっ!?混乱するからこれ以上情報を増やさないで!?!?」