不老不死
「え?あ、いや…じゃあ3分の2!3分の2をやるから余の下で働かぬか?」
食い下がってきた。
「いや違う。分量の問題じゃあ無いんだよ。なんで俺がお前の下で働かなくちゃなんねーんだ?」
「なんでってそりゃーお前、お前を召喚したの余だから。」
それを聞いた瞬間、俺の身体が勝手に動いた。
バキッっ!!
俺の拳が男の顔面に減り込む。
「グオッ!」
たまらずのけぞる男。
「テメェ、よくもこんなくだらねー世界に呼び出しやがったな!俺から俺を切り剥がしやがって!」
自分でも言っていて訳が解らないとは思う。
しかし事実、俺は…地球の今鹿風谷から切り離された…切り剥がされた存在になってしまったのだ。
こいつの英雄召喚の儀式のせいで。
エスブリッジに召喚された俺はもはや今鹿風谷で有って今鹿風谷ては無い。
地球には今もちゃんと今鹿風谷が存在し、人生を送っているのだから。
「いったいなんの権利が有って俺を召喚しやがった!」
「権利か。権利など関係ないな。」
「何だと!?」
「ではお前は何か権利が有って肉や魚を食らっているのか?何か権利が有って空気を吸っているのか?そもそも権利が有るから生きているのか?」
「……。」
突拍子もない斜め上の切り返しに思わず口籠る。
「人も動物も魔物も皆同じだ。出来るからする。出来ることをやる。それだけだ。」
「何言ってんだ?」
「余にはお前を召喚する術と権力が有った。そしてお前の力が必要だから召喚した。そこに権利だのお前の意思など関係無い。」
「めちゃくちゃだな。身勝手過ぎる。」
「身勝手?当たり前だ。余は大魔王だからな。」
マジかよ。
いや、まあそれもそうか。
魔王軍に召喚されたのだから、当然召喚者、もしくは召喚を命令できるのは魔王だろう。
「と、言う事はだ。…お前は俺かよ。」
「そうだ風谷よ。余はお前だ。」
「やっぱりかよ。」
「もっとも、余がこちらに召喚されたのはお前が生きていた時代から数十年後の事だし、召喚されてから100年以上たっているからもはや別の生き物だがな。」
「は?いやお前の姿、どう見ても30才前後だろ?今の話が本当ならもっとじーさんじゃなきゃおかしいぞ。てか生きてるのがおかしい。」
「まあ色々あってな。余の身体も脳も不老不死の呪いを受けているのだ。」
「そりゃまた夢の様な話だ。」
「そうでも無いさ。死にたくても死ねないのは正直しんどい時も有る。」
「そんなもんかね?」
「ああ、そんなものだ。…例えば…定期的に余に挑戦してきては余をボコボコにするおっさんとかがいるんだけどな。」
「…ん?」
「そのおっさん、、、まあそいつも余、つまりお前、、、要するに今鹿風谷なんだが。」
「話が見えない。」
「まあ聞けよ。そのおっさんの理想の力【虚無の掌底】ってやつを喰らうと余の能力とか魔力とか全部消されちゃう訳だよ。でも不老不死だけは消えないから向こうが色々な手段で余をボコボコにしてもな、余は死な無い訳だよ。」
「あ、うん。」
「でな、一〜二時間殴ったり蹴ったりしてるとオッサンの力も魔力も尽きるわけ。で、「なかなかやるな、今はまだ倒せぬか。しかし再び挑みに来るから覚悟しておけ魔王よ!」とか言いながら撤収していくんだ。」
「…うん?」
「で、ソイツが年に一回くらい来てな。毎回毎回同じ感じの事を繰り返すんだよ。な、嫌だろ。」
「あ、うん。嫌だな。」
「で、でだな!仕方ないから魔王軍の魔物を大量に派遣して奴の街を攻めさせたりしてヤツを防衛に専念させる事でヤツは最近来なくなってな、正直ヤッホーいってなっていたんだが…。」
「魔王がヤッホーいってなるなよ。」
「今度はソイツの弟子達が定期的に攻めてくる様になったのだ!人間界最強の剣士とか!頭のおかしい厨二病とか!お前が力を譲渡されてれる【最強】とかもその一味な!?」
「あら、そーなんだ。」
「ちなみにソイツらも全員余な!つまりお前な!つまり今鹿風谷な!?」
「「えー!?」」
後ろの方で事の成り行きを見守っていた牛ポルが俺と同時に驚きの声をあげた。