最強の残り火
チャチャチャーン!チャンチャンチャンチャーーン!
けたたましい音楽と共に部屋の扉が開く。
「せいや!」
空いた扉の向こうに馬…馬??に乗った黒衣の男が現れた。
…馬かアレ?
なんかツノとか生えてるけど。
チャーンチャチャーン!チャチャンチャチャーン!チャンチャンチャーチャチャーン!
…なんだこの音楽。
…って!これ将軍のヤツじゃん!
暴れん坊なじゃん!!
アウトー!完全にアウトー!スリーアウトチェンジ〜。
心の中で叫んでいると男は禍々しい漆黒の大剣を取り出して俺に向かって構えた。
「成敗!」
なんだアレは??
大剣そのものがまるで一塊の呪いの集合体であるかの様な負の威圧感を放っている。
俺は本能的に察知した。
アレニキラレテハイケナイ!!
振りかざされた大剣が俺に当たるスンデの所で俺は身を翻した。
ブゥン!!!
俺を狙った斬撃は空振り、俺が先ほどまで立っていた地点に振り下ろされた。
ドッカーーンッ!!!
「は!?」
地面が爆発して穴が開く。
…あれ?剣って斬る武器じゃ無かったっけ?
「なるほど、アレを避けるか。」
男は思いの外低い声で呟き、今度は地面に減り込んだ大剣を引き抜くと同時にその流れで俺を斬り付けてきた。
下から上に向けて凄まじ圧が駆け上がってくる。
ブゥンッ!!
俺はバックステップでそのアッパー気味の斬撃を交わした…が、剣風で吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
「うおっ!」
結構な勢いでぶつかったのだが、痛みはさほど感じない。
異世界転移の時に授けられた…転移神の言うところの「理想の力」ってヤツの影響だろう。
行き場を失った斬撃の剣風が部屋の天井を破壊する。
「てめー。いきなり現れていきなり攻撃かよ。」
「今鹿風谷よ。今お前は試されているのだ。死にたく無ければ全力で抗うがいい。」
ドスの効いた低音で身勝手な事を口走る黒衣の男。
カチーン。
「ムカつくな、お前。」
俺は昔から不条理な事が嫌いだ。
自分の意思や行動や未来を他者が蹂躙してくる事に強い憤りを覚える。
自分や自分の大切な人の尊厳を傷付けるヤツは許せない。
だから守ると決めた。
自分と…大好きな、大好きだった植野歩女を守るために最強を目指した。
まあ、今はその守りたい人に振られてしまい途方に暮れているわけだけど…。
それはともかくコイツがムカつくのは確かな事だ。
「ムカつくのならかかって来い。」
「言われるまでもねーんだよ!」
身体に力を入れると、細胞一つ一つが鋼よりも強靭に、そして柳よりもしなやかに脈動しているのが感じ取れた。
負ける気がしない。
ドンッ!
力強く地面を蹴り俺は光の速さで男に向かい飛び掛かる。
ゴスッ!!
次の瞬間、俺の拳は黒衣の男の腹に減り込んだ。
「ぐふぅ!!」
あからさまに苦しそうにする男。
さらに立て続けに俺は男の正中線に的確に打撃を加える。
「ぐはぁ!!」
男が地面に膝をつく。
「お、おのれ!最強の力は失われていないのか??」
「転移神ってヤツが言うには【最強の残火】ってのらしいぜ?このエスブリッジのどこかにいる【最強】ってヤツの現在の力の半分が俺には譲渡され続けるんだとさ。」
「マジか!?」
「え?マジか??」
キャラブレてね?
「では【最強】今よりが強くなると、お前も今より強くなるのか?」
「そー言う事だな。」
「修行も経験も無しでか?」
「おう。楽してわりーな。」
それを聴いた男の身体が小刻みに震えだす。
「…す…」
「す?」
「素晴らしい!素晴らしいぞ今鹿風谷!それでこそだ!それでこそだぞ!!」
うわぁ!?ビックリした!!
「気に入ったぞ!風谷よ、余の元で世界の理を学ばぬか?」
「あ?」
「余の片腕となれ!さすればお前に世界の半分を与えよう!」
→はい
or
→いいえ
みたいな選択肢が出てきそうなコテコテのセリフを吐いてきた男に対して俺はキッパリと言い放つ。
「いや、お前が俺の配下になれよ。さすれば地方の村の村長くらいはさせてやるぞ?」