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帰り道も、あのアーチを通った、花びらに、我を忘れ、小さな子供のようにはしゃぐ人々を見て、空しさを感じた。
植物を見たのは、初めてだった。
その真上にだけ開かれた青く輝く本物の空を見るのは、そこに吹く風を感じることが、初めてだった。
僕らは、こんなに綺麗な桜を、今まで知らないまま生きていた。風に揺られる枝を知らないまま生きてきたのだった。
それが例え人工物の地面から、ミリ単位の緻密さで整列して生えて居るものだとしても、落ちる桜は本物で、それだけで珍しかった。
粋な計らい、と呼んでもいいのかもしれなかった。けど瑞樹はかなしかった。両手を広げてくるくる駆け回る制服の裾を見ていると何故かやるせなくなって、来た時と同じように足早に桜道を過ぎた。