登場人物紹介と孤牢館の構造
野紐マダラ、二十七歳、ドレッドヘアのフリーター。
宗紫電ダレモ、三十三歳、銀行員。痩せ型で眼鏡装着。
宗紫電イクナ、ダレモの一人娘で、八歳の少女。ロングヘアで、白いワンピース姿。
藍野リンジ、二十二歳、茶髪の理系大学生。
人行オドル、二十九歳。短めのオールバック。料理人。この孤牢館の料理番も務める。
変わった名前の人物もいるが、全員日本人である。
人行が最後の自己紹介を終えると、タスクらを居間から廊下へ連れ出した。
物置やキッチン(人行が「僕の仕事場だ」とウィンクした)、共用トイレを過ぎると、裏口に行き当たる。
「シャワートイレがあるのはこの共用トイレだけだから、必要ならここを使ってね。さて、少し裏口のドアを開けるから、見てみてくれ」
ドアの向こうは、吹雪いていた。
すっかり日は落ち、孤牢館の明かりで照らされた範囲だけ、雪が白く舞っている。
その外は漆黒の闇だ。
辛うじて、簡素な直方体のような建物が、十メートルほど先に見える。窓から明かりが漏れていた。
タスクがそれを指さした。
「あそこにいるのが、江戸川アラン氏ということですね。おひとりではないようでしたが」
「ああ。あそこにいるのは、江戸川アラン――ちなみに四十八歳男性――と、もうひとり、円藤オオリは二十四歳女性。オオリさんは兼業主婦で、江戸川先生の秘書みたいなことをしてるんだ。人格的にはそりの合わないことも多いけど、仕事ぶりは尊敬し合っているように見えるよ」
今度はクナリが訊く。
「ご夫婦ではないんですか」
「オオリさんの旦那はサラリーマンで、江戸川先生とはほとんど面識もないんじゃないかな」
「我々、ご挨拶に行かなくて本当にいいんでしょうか」
「江戸川先生が必要ないと言ったら、本当に必要ないんだよ。君たち夕食は? カップラーメンを食べたって? 全く仕方ないな。僕らはもう食事を済ませたけれど、何かつまみたかったら言ってください。塩気のあるナッツ類に、缶詰のオイルサーディンくらいなら出せるから」
孤牢館は南側に今が配置されており、大きなガラス戸の向こうには雪原が広がっていた。
例の離れは、館から十メートルほど離れて北側にある。
母屋の客室は全て南向きに作られており、北側はそれらのドアが面する廊下が東西に一本走っていた。その中央に階段があって、一階と二階が行き来できる。東西の端には屋根へ上れる階段への扉があり、屋根の雪下ろしの際はここを使う。
二階の廊下には窓がなく、北側の様子は二階からはうかがい知れない。
一階の共用トイレやキッチンも北側には窓がなく、離れを視界に入れるには、先ほどのタスクたちが見た裏口を開けるか、屋外から回り込むしかないという構造だった。
母屋と離れが、お互いに気兼ねなく過ごせるように、そうした造りになっているのだろう――と、クナリなどは勝手に推量していた。後から知った話では、やはり似たような理由だったらしいが。
幸い部屋が空いており、タスクとクナリは一室ずつ与えられた。
孤牢館の二階は全ての部屋が客室で、宗紫電親子だけが二人で一室を使っているという。部屋の並びは、二階の一番西から、藍野、宗紫電、野紐、人行、階段を挟んでタスク、クナリ、円藤、江戸川である。離れにはトイレはあっても風呂や厨房がないので、江戸川も寝泊まりは母屋でする。
ただ、離れにも仮眠用の設備は江戸川と円藤の二人分があるらしく、執筆にはまり込むとなかなか母屋には帰ってこないらしい。さすがに、離れの仮眠室は男性用と女性用で分けているということだった。それぞれ、江戸川と円藤が利用することになる。
一室一室が縦長で、横幅は一般的なビジネスホテルのシングルと大差ない幅だった。部屋にはベッドとデスクの他、トイレとユニットバス、クローゼット、ミニキッチンがある。
しかし今夜の二人は、ひとりずつでいても仕方ないので、荷物を置くと早々にタスクの部屋に集合となった。