ユニークスキル[大気神イドラヴァの颶風]
先手を取ったのは僕だった。
鋭い踏み込みからジャンプし、5m程あるロックの顔面へと右のフライングハイキック(※1)を放った!
バンッッ!!
と、強い打撃音が響き渡るが、ロックは左のガードを上げて防御している。
「くそっ!!」
僕は、左脚でロックの胸板を蹴り、距離を取って着地する。
「…本当…素手で…良いの…か?…ヒューマン…脆く…て…弱い…種族…。」
「いや、ロックが素手なのに、僕が剣を持つなんて卑怯じゃないですか。」
その言葉に、ロックはニヤァ…と微笑むと、ファイティングポーズをとる。
「…おまえ…勇敢…だ…な…。」
「いやいや、くだらない意地です…よっ!!」
僕は再び持ち前のスピードを活かし、左右に高速でステップインすると、ロックの左脚の下の死角に入り込み、胴回し回転蹴り(※2)で膝裏への攻撃を放ち、上手く着地すると即座に距離を開けた。
「う、うーん…効いてる様子が無いんですが…。」
「…ふん…次…は…俺…行く…ぞっ!!」
ビシュッッ!!
「あっ、危なっ!!」
ロックの放った左手のパンチは、僕の横を擦めて行ったが、そのパンチの風圧で、僕は5m程、横へとふっ飛ばされた!
「か、風!?」
「…俺…大気の神…イドラヴァ…子…攻撃に…風…纏わせ…れる。」
リューは汗を垂らしながら笑う。
「ハハッ…マジか…。」
僕は考える、ロックに対して僕が有利な事。
取り敢えずスピードだ、タイタニアンは大きな分少し遅いだろう。
そう考えて僕はスピードで掻き乱す作戦をとり、ロックの死角死角へとステップで周り始めた。
「…スピード…撹乱…か…甘…い…。」
その瞬間、ロックの足元に、風による砂煙が舞うと、鋭く踏み込み、高速でステップしている僕へと追い付いてニヤリと笑った。
「なッッ!」
僕は前傾姿勢になっているロックの顔面へと、咄嗟に右ストレートを放ったが、顔の移動だけで躱されてしまった!
「…く…らえ!」
ドムッ!!
…と、僕の右の脇腹に、高速走行するバイクで突っ込まれたような衝撃が走った!…次の瞬間!僕は空中へ20m程浮き上がっていた。
「ぐあッッ!!」
ロックの左腕のボディアッパーを、カウンターで受けてしまい、僕の横隔膜はせり上がって肺を押し潰し、全く呼吸が出来ない。
こちらの世界に来て、レベルアップをしていなかったとしたら、内臓破裂して即死していてもおかしくない程の衝撃で、僕の口から苦しみの涎が零れ落ちる。
「!!!」
バギィ!!
そこへ更にロックが追撃を仕掛けてくる!!
空中で腹を抱えている僕の横へとジャンプして、右のフックを振るう!!僕は苦しみを我慢してガードするが、そのまま弾き飛ばされて森の中へと叩き落とされた!!
バキバキバキバキッ!!
枝を弾き飛ばしながら、僕は木々の間を吹き飛ばされていく!
ガッ!!
と、太い枝に身体がくの字になって枝に引っかかった。
「…ガッ!ガハッ!!ゲハッッ!!ゴハッッ!!」
…物凄いダメージだ、リジュワルドに来てから、文句なしで最大ダメージである…いや、人生最大ダメージか…。
フルフルと震える指でウインドウを開いて見ると、のこりのHPは131を表示している。
「ハァハァ…パンチ2発でこの様か…いや、生きてるだけで凄いな…。」
僕は、枝にぶら下がり、着地しようとするが、足元が覚束ずに着地ミスをして転んでしまった。
「…フー…どうしたもんかな?」
転んで突っ伏したまま、僕は考える。
スピードでも追いつかれ、パワーの差は歴然、正直なところ、勝ち目の「か」の字も見当たらないが…怒ってる訳でもないのに、不思議と降参をする気にはなれなかった。
「うん、あれだな、乗り越えなくちゃならない壁…はぁ…負けたくないな。」
僕は、身体を起こし、殴られた右脇腹を抑えながら、先程の場所へと歩いて行った。
「うぇぇぇん!!…あ゛あ゛!!リューがいぎでだぁー!!う゛ぇぇぇぇ!!」
シルカは全力で泣いていて、僕の生還で更に泣いてしまった。
「よ、良かった〜!ねぇ、もう降参しようよ〜!本気のタイタニアンに勝てっこないよ〜!」
ラビは、慌てながら僕に降参を進言する。
「わふっ!!(負けんな、御主人!!)」
ハスキーは、凛々しい顔付きでこちらを見ている。
うん、こんなみんなの為に僕は強くなりたいな。
そう思ってロックの方へと歩いて行くと、シルカとラビがリューの進行方向へ立ち塞がり、リューを止めた。
「もう降参しよう!」
「リューが死んじゃうよ!」
僕はニヤリと笑うと、シルカとラビの肩を掴んで退ける。
「…大丈夫だから。」
「…おまえ…まだ…やる…の…か?」
僕は、手を招いてロックに「来いよ。」と言うが、僕にはもうフットワークを使って飛び込む力が無かった。
「…おまえ…凄い…俺…敬意…持って…戦う…。」
そう言うと、ロックの周りに先程よりも遥かに強い風が纏わりつく。
「…これ…ユニークスキル…[大気神イドラヴァの颶風]…あらゆる…物…薙ぎ倒す…暴風…。」
僕は、いよいよダメかな?と思いながら、ラビに改造してもらったフィッシンググローブをグイッと付け直した。
僕を止めても無駄と悟ったのか、シルカとラビは涙目で固唾を呑んで見守っている。
「ッッッ来いッ!!」
「…うぉぉぉぉ!!」
ロックは、凄まじいスピードで此方へと走って来る、そのスピードは、まるで台風の暴風の様だ。
その勢いのまま、右の拳を振りかぶると、体制を前傾に傾け、全体重を掛けて僕へと右ストレートを放って来た!!
グワォォォ!!
と、空気が高速で動く音がして、僕の眼前にパンチが迫る!!
「うっわぁぁぁぁぁぁ!!」
その時、みんなの声が聞こえた。
「リュー!負けないで!!」
「リューちん!!」
「ワォォォーン!!(御主人ーー!!)」
その声に右拳を全力で握り込む。
「僕はロックの強さを超える!!」
そう言い放ちながら、ロックのパンチを掻い潜るが、同時にパンチの纏わり付いた鋭い風が、鎌鼬となって、僕の身体を切り刻む!
それを歯をくいしばって耐えると、高速で此方へ向かって来るロックの顎に、握り込んだ右拳をカウンターで叩き込む!!
バギィ!!
そんな会心のカウンターにもかかわらず、微妙に僕は押されてしまっている!!
「ぐっがぁぁ!!」
ダメだ…このままじゃ押され…!!
「「リュー!!!」」
シルカ達が僕の事を叫んだ、その瞬間、僕は血液が迸る感覚がした。
心臓から身体を巡り、パンチを放っている右拳へと力が漲ってくる!!その異常な力は、光を帯び、僕がカウンターの右ストレートを振り切ると同時に光が爆発したように弾けて、ロックを後方へと弾き飛ばした!!
バァァーーン!!!
パンチとは思えない音が辺りに響き渡り、ロックは気絶してピクピクと痙攣しており、勝負は決着した!!
僕は、ヘナヘナと、その場へ座り込み、ウインドウを見ると、残りのHPは11で、本当にギリギリであった。
「や……ったぁーー!!!」
僕が両手でガッツポーズをしていると、シルカ、ラビ、ハスキーが飛びついてくる!!
「リューぅぅえぇぇーーん!!」
「リューちん!!リューちん!!」
「わふっ!わふっ!!(流石、おいらの御主人!かっこよすぎて惚れ直しちゃったよ!!)」
みんなに抱きつかれ、僕は後ろに倒れ込むと、ホッ…と、一息つく。
そして最後の一撃はなんだったのだろう?とスキルの項目を見てみた。
ユニークスキル[竜攘虎搏]NEW!!
とてつもない強敵と戦った時のみ発動するカウンタースキル。
特定の条件でカウンター成功時の瞬間のみ、全ステータスが10倍になる。
ハハハ…これか…何とか…なったな…。
そのまま僕の意識は途絶えたのだった。
※1フライングハイキック
ジャンプしながら相手の顔面へ上段回し蹴りを放つ技。
※2胴回し回転蹴り
空手の蹴り技の一つで、上半身を入れ込みながら回転し上段からの浴びせ蹴りを放つ技の事。