スロープウィステリア号は海原を行く
タイタニアードへの出発の朝、リュー達は石積み堤防に着けられたセイカイの船の前に立っていた。
小さなマストの付いた木造の漁船で、全長は6mくらいだろうか?安定感のありそうな幅広のデッキには、投網や銛、錨などが積まれている。
「セイカイさん!おはようございます!」
「ああ、おはよう。
運良く天候にも恵まれたな、予定通りならタイタニアードまでは昼前ぐらいに着くはずだ。
取り敢えず舟に乗り込んでくれ!」
リューが船首に書かれた船名を、ウインドウで翻訳されたものを見てみる。
[Slope wisteria号]
「坂の藤の花…良い船名ですね!」
「だろう?ウチの曾祖父さんが付けた屋号なんだよ。」
「趣きのある良い屋号ですね!今日は、よろしくお願いします。」
リューがセイカイに頭を下げてから舟に乗り込むと、シルカの手を取って乗船を手助けする。
ラビとハスキーは揃ってジャンプし、スロープウィステリア号へと乗り込んだ。
「さぁ!出航するぞ!!この舟に乗ったからには、お前達にも色々と手伝って貰うからな、よろしく頼むよ!」
「「「はいっ!」」」
「わふっ!(はいっ!)」
「よし!リューはメインマストを拡げてくれ!
ラビは、係留してあるロープを解いて舟に積んでくれるか!?」
「わかりました!!」
「あいあいさ〜!」
リューがマストを拡げ、ラビがロープを解くと、舟はゆっくりと進みだした。
セイカイは、舵を取りながら、それぞれに指示出しをする。
「いいか、今日の朝一が勝負だ!下げ潮による海流に加えて、今日は運のいい事にナライの風(※1)が吹くからな。
その風をメインマストに受けて一気にタイタニアードへと進むぞ!!」
セイカイの言葉に各々の顔が引き締まる。
ラビは、特に神妙な面持ちで、進んで行く舟の先の朝日に染まる空とタイタニアードを見つめていた。
舟が石積み堤防を越えて沖へと出て行くと、パンッ!!…と、メインマストにナライの風を受けて突き進んで行く。
「よし!順風満帆だ!!このまま一気に行くぞ!」
リュー達を乗せたスロープウィステリア号は、波を砕きながらタイタニアードへと向かって行った。
…。
「潮風が気持ちいいね!」
シルカが、どこまでも青く広がっている海を背景にそう言った。
舟に押されて弾ける水飛沫、それに片目を閉じて、美しい髪をかきあげる仕草をするシルカ。
リューがその様子に見惚れていると、セイカイの檄が飛ぶ。
「ほら!リュー!ボーッとしてちゃイカンぞ!左舷マストを少しだけ引っ張ってくれ!!」
リューは、ハッ!としてセイカイの指示に反応する。
「…よしっ!!後は微妙な舵取りでタイタニアードまで着くはずだ!!お前達は、少し休憩しててくれ!」
フー!と息を吐いてリューが座り込むと、ハスキーが船首で気持ち良さそうに風を浴びていた。
潮風になびくハスキーの毛が、凛々しい狼の佇まいをしていて、リューはハスキーに話し掛ける。
「なぁハスキー、お前少し大きくなったか?」
すると、ハスキーが振り返ってリューに向かって言う。
「わふっ!(おいら、絶賛成長中だからね!)」
そう言って嬉しそうに尻尾を振った。
リューは微笑んで手を挙げると、次はラビの方を見てみた。
ラビは、相変わらず神妙な面持ちで遠くを見ていて、心配になったリューがラビに話し掛ける。
「…ラビ…大丈夫か?」
そう言うと、ラビが口を押さえながらリューの方へと振り返って言った。
「…全然…大丈夫…じゃ…な…い…。」
…テイカーの事を考えて凹んでいるのかと思いきや、どうやら舟に酔ったようだ。
途端にラビの顔が真っ青になって船外に顔を出した。
…描写自粛…。
「…ハー、舟ってこんなに酔うんだね〜…。」
少しサッパリしたのか、ラビが話し掛けて来た。
「…そうだね、苦手な人は慣れてもキツいみたいだから…ウップ…。」
リューがその様子を見て、貰ってしまいそうになると、シルカが背中をさすってくれた。
「あ、ありがとうシルカ…。」
「どういたしまして。」
シルカがニコっと笑い、リューも笑顔になると、ラビが妬いて言う。
「…羨ましいな〜、あたしにも優しい旦那様がいてくれたら…ウップ。」
ラビは再び船外へ顔を出すと、ハスキーが歩いて来てラビの横に座った。
「わふ?(ラビの姉ちゃん、大丈夫?)」
「…ハスキーは、やっぱり優しいよね〜…。
…全然…大丈夫じゃないけど…ウップ…。」
ハスキーが、座り込んでいるラビの膝にお手をすると、元気よく言い放った。
「…わふっ!(…ラビの姉ちゃん…ドンマイ!)」
その光景に、セイカイさんが吹き出して笑いながら言った。
「アッハッハッハ!…よーし、じゃあもうすぐタイタニアードに着くぞ!!ここからはオールで漕いで方向の微調整をするから重労働だぞ!?
あそこに見える岬がわかるか?あそこへ寄せて行くからな!!各自オールを持ってくれ!!」
「「アイアイサー!!」」
「…は〜い…ウップ…。」
「わふっ!(うん、ドンマイ!)」
お手をして励ますハスキーに、ラビ以外の笑い声に包まれたスロープウィステリア号は、タイタニアードの岬へと漕ぎ進んでいくのであった。
※1ナライの風
場所によっても違うが、この場合は北東からの強い風の事。
僕は船酔いは無いんですが、やはり厳しい人には地獄の様な気持ち悪さみたいですね…苦笑




