新スキルとスニーキングキル
「さってとぉ!」
リューは出刃包丁を片手にヘイルボルグの鱗を落とそうとしたが、根魚特有の鱗が表皮にめり込んでいるタイプである事に気付いた。
「あれ?
この魚はすき引き(※1)の方が良いっぽいな…早くしないと陽が落ちちゃうし、急いですき引きしよう!」
リューは、出刃包丁から柳刃包丁に持ち変えて、ヘイルボルグの表面の鱗を丁寧に、かつ手早くすき引きしていく。
手慣れたもので、僅か数分ですき引きを終え、内臓を取り出す。
「半身は塩焼きにするから、頭は落とさずに二枚卸しにするか!」
…と、頭はそのまま、背中側から包丁を入れ、中骨に沿って綺麗に包丁をいれていく。
次は腹側、こちらも中骨に沿って包丁を入れ、肋骨を断ち切って身を離す。
これで二枚卸しの完成。
反対側も、同様に卸すと三枚卸しとなるが、今回は半身は塩焼きにするのでそのままだ。
「よっし!先に刺身作っておくか!」
切り取った身の肋骨をすき取り、中骨を取り除き、皮を引く。
一連の動作は、やはり手慣れたもので、あっと言う間に刺身が完成した。
「よしよし、じゃあ炭火を起こしてっと!」
まな板を退かせばほら!バーベキューコンロ登場!
僕は、ハイテンションで炭と炭に箱に入ってた着火剤を使い、炭火を起こしていく。
ここで、遂に陽が落ちてしまったが、僕は周囲が思ったより明るいに気付いた。
「あれ?召喚したままだった、タックル便利のドアの所が明るい!
良いね!これで21時の営業終了まで明かりには困らないぞ!
タックル便利は365日営業だし助かるなぁ…。」
僕は、タックル便利を拝みつつ、炭火が安定したところで、ヘイルボルグに塩を振り網に乗せた。
二枚卸しの塩焼きは、バーベキューコンロの場合、まずは切り取った側から焼き始める。
最初は網に引っ付きやすいし、皮側から焼き始めると、皮が剥がれボロボロになって旨味が逃げるという持論がリューにはあるらしい。
炭火は火力を抑え、遠赤外線効果でジックリと焼き上げていく。
「すっごい良い匂いだなぁ!
脂の質が良いのが良く分かる…。」
リューは、涎が垂れそうなのを飲み込んで堪え、焼き上がる前に先に作っておいた刺身を食べる事にした。
「いっただっきまぁーす!」
リューは醤油につけたヘイルボルグの刺身を箸で口に放り込む。
口に入れた瞬間に、上品な脂が溶け出し、かつプリプリとした歯応え!
そう…これは元の世界の魚の味に例えるならば、かつて一度だけ食べた事がある九絵!!
あの日本でトップレベルの高級魚の味に近い!!
「うわ!美味い!!
これは…ヤバい!!」
リューは、感激に涙を流しながら刺身を口に放り込む。
感動しながら食べていると、スキルを獲得したのか、ウインドウが勝手に開いた。
スキル[敏捷性向上(小)]NEW!!
獲物を待ち構えて、瞬発力で食らいつくヘイルボルグの特性スキル。
敏捷性に[40]のボーナスが付く。
このスキルは、レベルアップしても(小)→(中)といった成長はしない。
「おぉー!素早さ系がボーナスポイントか!
何かに襲われても逃げれるかなぁ?」
リューは、無自覚にフラグを立てながら飛び跳ねてみると、軽く5m程ジャンプした。
「お、おおう!凄いがチート過ぎないか?
これならバスケットボールのスリーポイントラインからだってダンクできちゃうぞ!」
リューは「フハハハ!」と高笑いしながら夢中で飛び跳ねているが、ふと気がつくともう一つスキルを覚えていたようだ。
スキル[バイティング]NEW!!
ヘイルボルグの強靭な顎の力をスキル化したもので、噛みちぎる力が向上する。
その強力な咬筋力を簡単に説明すると、栄螺の殻を噛み砕ける程強化され、それに合わせて歯の強度がその咬筋力に耐えれる程に強化される。
「これも凄いな!
敵の剣を歯で受け止めちゃったりしてね!」
再びリューはフラグを打ち立てたが、テンションダダ上がりだった為にそんな事は全く気にせず、食べかけだった美味しいヘイルボルグの事を思い出して、食事へと戻った。
「さーってと、次は塩焼き…!こいつを待ってたぜ!いっただっきまぁーす!」
…と、塩焼きに箸を突いた瞬間、首筋に冷んやりとした感触がした。
「動くな…!」
「ひっ…!」
いきなりの状況に、リューの思考は完全に停止してしまったのだった…。
※1すき引き
魚の鱗の落とし方の一つで、柳刃包丁で、鱗と薄皮一枚を薄く切って鱗を取る方法。