リュー初めての敗北?
「み…海上さんのぉ…ロリコン野郎ぉぉ〜!!」
バキィッ!!
皆木さんの激烈なアッパーカットを綺麗に顎に貰ってしまった僕は、宙空へと浮き上がり、そのまま成す術無く背中からタックル便利の床へと叩きつけられた。
キレキレのアッパーカットで、既に僕の意識は朦朧としていたが、皆木さんの容赦の無い猛攻は留まる所を知らず、僕に馬乗りになって打ち下ろしの拳打を浴びせかけた。
な…なんで、僕がこんな目に…。
薄れ行く意識の中で、僕は、それに至る経緯を走馬灯の様に思い返していた…。
…。
密林の獣道に生い茂る藪をラープシュグラディウスで斬り払い、モンスターに気を付けながら慎重に一時間程歩いて行くと、普段荷馬車が通っているであろう地面が踏み固められた少し大きな道に出たようだ。
「ふう…、これで後は道なりで大丈夫かな?」
額を流れる汗を服の袖で拭いながらリューが言った。
「うん〜!この道を左方向に30分位歩いて行けば、エルノーラ最南端の町[メルビエール]に着くよ〜!!」
ラビは指を左に指して行き先を案内しつつ、密林を抜けて張り詰めていた気が緩んだのか、安堵の表情をしている。
「メルビエールで漁師さんに交渉して、タイタニアードまで乗せて行って貰える様にお願いすれば良いのよね?」
今後の行動確認をしつつ、シルカは身体に付いた草の破片を手で払い飛ばしている。
「そうだね〜、タイミング良く舟を出してくれる漁師さんがいたら良いんだけどね〜。」
そうラビが言い、さらに20分程歩いて行くと、遂に辺りの木々が開けて、目の前に海が広がった。
フェノールの巨人の長靴の上から見たタイタニアードは、右奥にうっすらと見えただけだったが、ここからは真正面にハッキリと見え、距離もそれ程遠くなさそうだ。
「う、海だ…!」
海を見てソワソワするリューに、シルカが耳打ちする。
「…今は、ラビの為にタイタニアードに渡るのが最優先だから、釣りは少し我慢だよ?」
「そ、そうだね…ぐぬぬ。」
リューは、名残惜しそうに海を横目に見ながら海岸線を西へと歩いてメルビエールを目指す。
そして10分程経った頃、城壁がボロボロに崩れ落ちたメルビエールの町に到着した。
「…これって、何かモンスターにでも攻め込まれたの?」
リューが心配して二人に聞いてみると、二人揃って首を左右に振った。
「メルビエールは元々海洋国家でね〜、エルノーラ大陸以外からの攻撃を、自慢の海軍で撃破してたんだよ〜。」
「でも、エルノーラが大陸統一を目指して侵攻して来ると、最も弱い陸戦に持ち込まれて大敗しちゃうの。
その後メルビエールもエルノーラの一部になるんだけど、彼等はエルノーラの為に海軍を指揮するのが嫌だったのか、漁師へと趣旨変えをして漁業生活を送っているのよ。」
「なるほど、海洋国家としての体裁を捨てたから、城壁は直さずに敵対心が無い事をエルノーラにアピールしてるのか…。」
リューは、フムフムと頷きながら城壁の残骸である崩れた瓦礫を横目にメルビエールの町へと入って行く。
崩れた城壁からすぐにある木で出来た質素な門を潜ると、そこは漁村と言った出で立ちで、かつて海洋国家として栄えた国とは言い難かったが、リューの目は輝いていた。
干してある漁業用の網、立て掛けてある銛や延べ竿、鼻につく匂いは磯臭い漁港の香りがして、リューは生まれ育った町を思い出し、胸が騒ついた。
「…いいね!僕の好きそうな町だ!」
大きな石を積み上げた堤防の上を飛び歩いて行くと、足元には煌びやかな魚達が群れを成して泳ぎ回っていて、リューだけでなく、シルカとラビも目をキラキラとさせた。
「綺麗な海だね!魚達も綺麗で優雅に泳ぎ回ってるよ!」
シルカがそう言いながら、足下に見える珊瑚を覗き込んでいると、横で釣り糸を垂れていたお爺さんが、うなだれながら言い始めた。
「そうでもないんじゃよ、最近は異常気象なのかどうなのかは知らんが、この時期には居ないはずのモンスターが、この海域を荒らし回っていてな、儂の息子も漁に出れず、ほとほと困り果てているんじゃ…。」
「…モンスターですか?」
リューは、お爺さんに聞き返してみると、そのモンスターについて詳しく説明をしてくれた。
「デコの張り出した大きな魚のモンスターでな?必ず雄雌揃って現れるヤツなんじゃが何せ気性が荒くてなぁ…。
舟にも恐れずに頭突きで突っ込んで来て、沈没させてしまうんじゃよ。
大きさは、雄が2mくらいで背ビレが大きくてな、雌が1.5mくらいで胸ビレが大きく発達しておるんじゃ。」
「それじゃあ、そのモンスターが何処かに行くまでタイタニアードには渡れないって事〜?」
ラビがガッカリしていると、リューが何かを思いついた様でニヤニヤしている。
「お爺さん、その魚を釣り上げてしまったらもう海には危険は無いって事ですか?」
リューがお爺さんに尋ねると、お爺さんは首を振ってリューに言い返した。
「まず、釣れる竿がないだろう?簡単に釣竿の糸が届く範囲に来るとは思えないぞ?…だが、もしも雄と雌を二匹とも釣り上げられたなら、危険は無くなると言っても過言じゃないぞい、やつらは広範囲の縄張りを持っておるらしくての、同時に二匹以上を見たと言う事は今迄に一度もないらしいからのぅ。」
その言葉にリューは、ニヤリと笑うと、お爺さんに「色々と聞かせてくれてありがとうございます。」と、言ってその場を後にした。
メルビエールの旧城壁の大きい瓦礫の影にリューは歩いて行くと、タックル便利への扉を召喚した。
「なななっ!!その扉は何なのリューちん!?」
初めてタックル便利の扉を見たラビは、驚きの声を上げた。
「ラビ、本当の事を言うとね、僕はこの世界のヒューマンじゃないんだよ。
これから行く所は、僕の元々居た世界の釣具店さんなんだけれど、何があっても向こう側の人に危害を加えたりしちゃいけないよ?」
ラビは驚愕の顔を浮かべていたが、シルカが平然としているのを見て、ゆっくりと頷いた。
「よし、じゃあ行こう!!」
リューが扉を開けると、いつもと変わらぬベルの音がして皆木さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃ…?」
皆木さんは、リューの姿を確認した時に、リューの腕にしがみ付きビクビクとしている小さな女の子がいる事に気がついた。
「こんちゃーす皆木さん!!今日は…ん??」
皆木さんの方を見てみると、下を向いてプルプルと震えているようだ。
「ん?どうしたの?風邪でも…。」
「み…海上さんのぉ…ロリコン野郎ぉぉ!!」
バキィッ!!
…。
「ハッ!!」
僕が目を覚ますと、そこはシルカの膝枕だった…まさかここが天国か?
自分の顔を触ってみると、物の見事にボッコボコである。
「い、いたいっす…。」
どうやらまだ天国ではないらしい。
「海上さん…早とちりした上に、ボコボコに殴ったりして、ごめんなさぁーい!!」
皆木さんが全力で頭を下げて謝罪してきたので、僕はボコボコの顔で何とか笑顔を作りながら言った。
「き、気にしないでいいっすよ、み、ミナギサン…。」
震えながら片言で言う僕を見て、シルカが割と真面目な顔で言う。
「…リューが一方的にやられちゃうなんて…皆木さんが最強のヒューマンって事かしら?」
「これが、リューちんの居た世界…修羅の国過ぎる!!」
ラビの大いなる勘違いもあったが、なんとか誤解を解いた僕だった。
何とか日が変わる前に投稿できました。
本当に時間がマチマチで申し訳ないです。




