陰謀とテイカーの想い
「いいか?あのリューってヤツと、シルカってヒューマンは悪いヤツで、ラビとライドンを殺してしまう気なんだよ。」
黒いフードを被った男は、誰も居ない坑道の奥でテイカーに話し出した。
「…それ…本当…か?」
テイカーは、慌てた表情をしながら聞き返した。
「あぁ、俺の依頼主は未来を予知する事が出来るんだ、このままだとラビとライドンは、あの二人に殺されてしまう運命なんだぞ。
だが、この予知は変えられる運命だからな。
テイカー、お前の力であの二人を殺して助けてあげてはくれないか?」
その言葉を聞いたテイカーは、ガクガクと震え出した。
「…でも…オレ…殺すの…怖い…。」
「じゃあ、テイカーは、ラビとライドンが死んでしまっても良いんだな!?」
テイカーは、その言葉に頭を抱えて座り込んでしまった。
大好きなラビとライドンが死んでしまうのは嫌だ、しかし心優しいテイカーには、人の命を奪う事が怖くて仕方がなかった。
「どうなんだ?ラビ達を守ってやれるのは、テイカー、お前しかいないんだぞ?」
「…教えて…くれ…この…仕事…依頼主…は?」
フードを被った男は、言っても良いモノかを少し考えた後で、口を開いた。
「…よし、この仕事の依頼主は……………の…………様だよ、これで疑いも無いと分かっただろう?ここに命令書もあるんだ。」
男が、その命令書の内容をテイカーに見せると、依頼主の名前を聞いたテイカーは唖然としていた。
「…本当…なの…か?」
「…ああ。」
テイカーは、自分が断れない立場にいると考えた。
断ったなら、ラビ達がリューに殺されなかったとしても違う不都合がラビ達にあると考えたからだ。
「…わかった…。」
「ククク、そう言ってくれると思ったよ!幸い今夜は雨だ、夜襲を仕掛けて一気に殺してしまってくれ!」
…。
テイカーは、先程、坑道であった事を思い返していた。
雨足はまだまだ強く、深夜のヴォライアンの町に打ち付けていて、やるなら今しかない…。
その手に握った大振りのテイカー専用のハンマーをぎゅっと握りしめると、ライドン家の納屋を横薙ぎに打ち払おうとした。
…。
ハスキーの耳がピクリと動くと、鼻をクンクンと嗅いでガバッと起き上がった。
外の異様な気配を察知したハスキーは、リューの服を咥えて引っ張るのだが、徹夜の疲れが出ているのか起きる気配が無かった。
仕方なくシルカを起こそうとしたその時に、納屋の外からもの凄い音と衝撃波が辺りに響き渡った!
ガッギイィィィィィン!!!
その音にリューとシルカも飛び起きて外に出てみると、テイカーの途轍もなく巨大なハンマーを、ラビが黄銀に輝くメイスで抑えていた!
「…テイカー、一体どういうつもりなの?」
「なんで…ラビ…起きてる?」
「あたしは、ハバキの子だからね、地に住まう民の気持ちはわかるんだよ。
…テイカーの殺さなくちゃならないって気持ちが伝わって来たから、急いで止めにきたんだ。」
目に涙を浮かべたテイカーは、ハンマーを持ち上げると、キッ!とリューの方を睨みつける。
「こいつが!こいつがぁ!!ラビとライドン…殺す気だって言うから!!!」
「そんなの嘘!ダメ!テイカー!!」
テイカーが聞く耳を持たずにリューとシルカの方にハンマーを勢いよく振り下ろすと、リューはシルカを後方へ突き飛ばして、自身はハンマーの接地点よりも前に高速で踏み込んだ。
バァン!!と、南方黄鉄で出来た地面が砕ける。
テイカーの懐へと走るリューの横をハスキーが併走する!
「取り敢えず、テイカーを無力化するぞ!ハスキー頼む!!」
「わふっ!(任せてっ!)」
ハスキーは、テイカーのハンマーに飛び乗ると、そのまま腕を駆け抜けて、テイカーの顔の横に辿り着いた。
「今だ、いけっ!ハスキー!」
キィィィィーーーーーン!!!
と、ハスキーの不協和音がテイカーの耳元で炸裂すると、テイカーは、一歩、二歩と後退した。
その後退するテイカーの足に目掛けてリューがスキル[ハードタックル]を使用し、足払いの様に押し込むと、蹌踉めきながらテイカーは倒れ込んだ。
「今だ、シルカ!」
「はいっ!」
シルカはスキル[飛翔]で、テイカーの喉の辺りに着地すると、ショートソードを当てがってテイカーを制する。
「テイカー?動かないで?」
そのまま動けずにいるテイカーに、ラビが歩み寄って問いただした。
「…なんでこんな事をしたの?」
テイカーは、涙を流しながら言う。
「この二人が…ラビ…ライドン…殺す…言われた…オレ…嫌だった。」
「あたしのユニークスキル分かるよね?そんな考えの持ち主を、家に泊めたりなんかしないから、大丈夫だよ?」
シルカは、泣きじゃくるテイカーを見ると、ショートソードを収め、地面に降りてリューの隣に歩いていく。
「テイカー、誰かに騙されて私達を襲ったみたいだね?」
「そうだね、心優しいテイカーが、一人の考えでは襲撃なんて出来ないだろう。」
ラビに促されて起き上がったテイカーは、リュー達に謝った。
「…ごめん…なさい…。」
「いいよ!テイカーが悪い訳じゃないし。
それより、テイカーにそんな事を吹き込んだのは、どんな奴だった?」
「…黒いマント…フード被ったヒューマン…予知出来るユニークスキル…持ってる人の命令書…あった。」
狙われる覚えの無いリューは、それを聞いて将来的に自分達が邪魔になるのを予知で見たのかな?と考えていた。
「…その…ヒューマンの名…ッ!!」
バスッ!!
そこまで喋ったテイカーの首に、投げられたであろう槍が突き刺さり、その槍を抑えながらテイカーは倒れた。
「いやぁぁぁぁ!!テイカァー!!!」
ラビがテイカーに駆け寄るが、テイカーは、ヒュー…ヒュー…と、力無く呼吸しており、素人目にも致命傷だと分かる。
「ハスキー!今、槍を投げたヤツを見つけれるか!?」
「わふっ!(やってみる!)」
ハスキーは、耳を澄ましてここから遠ざかろうとする一人に気付いた。
「わふっ!(おいら達が来た坑道の方に走るヤツがいる!)」
「…よしっ!!」
リューは、持ち前の俊敏さでジャンプすると、スキル[滑空]で坑道へと最短距離、最速で到達し、黒いフードの男の前に立ちはだかった。
「…おい。」
そこには鬼の形相をしたリューが居て、ユニークスキル[流視の逆鱗]の影響からか、打ち付ける雨が即座に蒸発する異様な風体だった。
「…くっ!」
「なんで、関係のないテイカーを使った?
そして、口を割りそうになったら殺すのか?
お前みたいなヤツをクソ野郎って言うんだよ!!」
リューが地面を踏み込むと、ドン!と南方黄鉄の硬い地面が凹む。
男は言い訳をせずにスラリと、腰のレイピアを抜くと、高速でステップインしてリューの首に突きを放った!
リューは、それを絶妙なタイミングで躱しながら、クロスカウンター(※1)でパンチをフードの男の顔面に叩き込む!
フードの男は、レイピアを落としたものの、バックステップで距離を取り、次は背中のロングソードを取り出した。
「なぁ?さっきから聞いてるんだけどさ、なんでテイカーを使った?そしてなんで僕等を狙う?」
「…知らんよ、上からの命令だからな、タイタニアンは、使えそうだから使った、ただそれだけだ。」
その言葉にリューのコメカミには血管が浮き上がり、鬼神の如き表情を浮かべながら踏み出していく。
「手前は、何様だよ?平和に生きていた[人]を自分勝手に巻き込んで、用事が済んだら捨てる?僕が気に食わないんだったら、手前の力で掛かって来いってんだ!!」
「[人]?あいつはタイタニアンだぜ?ヒューマン様が勝手に使おうが勝手だろう?」
「…もういい、下衆の話しを聞く気はない。」
リューが踏み込むと、フードの男は構えるが、あまりの速さに姿を見失ってしまった。
「なっ!どこだ!!」
男の背後に立っているリューが、トントンと男の肩を叩き、バッ!っと、振り返る男の顔面に拳を叩き込む。
再びパンチを貰った男は、タタラを踏んで後退するが、何とか倒れずに剣を構えた。
段々と歩み寄ってくるリューに、男は恐怖を覚え、ロングソードで上段から斬り下ろそうとするが、その前にリューは男の懐まで潜り込んで左のボディアッパーを放つ。
「…ぐ…ぁ!?」
ロングソードを背後に落とし、腹を抱えて前のめりになる男の顎に左アッパーを放ち、顔を跳ね上げ、そのまま右ストレートで再び顎を打ち抜くと、フードの男は、力無くその場に倒れ、動かなくなった。
…。
「ダメ!テイカー、死んじゃダメだよ!!」
ラビが、テイカーの身体を揺すりながら言うが、テイカーは首に槍が刺さっている為に呼吸が思うように出来ず、苦しそうにしながらラビに言った。
「…ありが…と…ラビ…オレを…家族と…して…扱って…くれ…て…。」
ラビが泣きながらテイカーに縋り付く。
「…嬉し…かった…坑道…オレ…の…部屋…手紙…ある…から。」
ウンウンと、ラビが泣き顔で頷く。
「…大…好きだ…ラビ…。」
「あ、あたしだって、テイカーの事が…!!」
そう言い掛けた時、既にテイカーは事切れており、南方黄鉄の坑道にラビの泣き声が響き渡った。
ドサッ!!
その時、リューは犯人のフードの男を連れて帰って来て、ラビの前に放り投げた。
「…ラビ…ゴメン…僕達が此処へ来なければ…。」
ラビは、首を左右にブンブンと振ると、リューに言った。
「悪いのは…、こういう事をするヤツで、リューが悪い訳じゃないよ…。」
「…この犯人は、ラビの好きな様にしてくれ、僕は、ラビが何をしても止めないから。」
ラビは、怒りに満ちた目で男を睨みつけたのだった。
※1クロスカウンター
相手の攻撃してきた手に交差するように出すパンチの事。




