殴り合いの和解
「…リュー…リュー、リューってば!!」
シルカが僕を揺すって起こしている。
異様な身体の倦怠感と頭痛に、僕は顔を顰めながら目を開いた。
「…ん…、シルカ?…ここはどこ…?」
「ここは、モナード・レイの二階の客間よ。
リューがお酒飲めないのを知らなかったグランさんが、悪かったねって、部屋を貸してくれたの。
それより、さっきから外から変な話し声がするの。
もしかしたら罠で、外を取り囲まれてるって事もあるかもしれない…。」
リューはその言葉にガバッと起き上がり、シルカにより詳細な話しを聞いて、相談する。
「グリフのヤツが、懲りずに攻めて来たのかもしれないな、もしかしたらグランさんも共謀者で、嵌められたのかも知れない。
僕が[隠密]のスキルで、表の様子を見てくるから、シルカとハスキーは、裏から逃走出来る様に準備しておいて。」
シルカとハスキーがコクリと頷くと、リューも頷いて部屋を静かに抜け出し、一階へと降りていった。
営業を終えた店内は、ロウソクの灯りだけが灯る薄暗い空間で、リューはソロソロと忍び足で店の入り口に向かう。
店の入り口からコッソリと外を見てみると、グリフとグランさんが何やら話しをしている様だ。
「……から、あの……ヤツが………のか?」
「……ない、そんな……だから………帰っ……。」
少し遠いからか、おぼろげにしか二人の会話を聞き取れない。
やはりグランさんはグリフに通じていたのだろうか?
リューは少し悲しくなってしまったが、二人の会話は続いているので聞き耳を立てる。
そんな聞き取り難い会話を暫くしていると、いきなりグリフが神剣アーサレスカリヴルヌスをスラリと抜いた。
「大人しく聞いてるウチに、さっさとアイツを出しやがれ!俺はもう我慢できねぇんだよ!!」
「アイツはウチの客人だ!!お前が何と言おうが、絶対に差し出す様な真似はしない!!」
冷静な会話から我慢出来なくなったのか、いきなりグリフの声のトーンが上がって怒り始めた。
グランさんは、神剣を構えるグリフにガクガクと震えながらも、自分達の事を庇ってくれているのだとリューは理解した。
グランさんのその姿に胸を撃たれる思いがして、グランさんを疑ってしまっていた自分を恥じた。
「サッサとあの野郎を出さねえと、ブチ殺すぞ!?」
グリフの振るった神剣が、グランさんの肩口に突き立てられる。
「ぐっ!!…く、絶対に!絶対にお前の様な奴にアイツを引き渡すなんてゴメンだ!!
殺すなら殺せ!!俺は自分の正しいと思った事をやる!!」
「なら…死にやが…!!」
グリフがそこまで言った所で、再び怒りに打ち震えるリューがグリフの前に現れた。
「ば、馬鹿野郎!!なんで出てきた!!早く逃げろって!!」
グランさんがそう言うが、リューは言い返す。
「グランさん、貴方は町で権力を持っている奴の敵である僕達に飯を食わせてくれた、宿を提供してくれた、そして今、僕達の為に身体を張って守ろうとしてくれている。
それを見捨てて逃げるなんて、日本男子じゃない!
グリフ、お前の相手は僕だ、来いっ!!」
グリフはギリギリと歯を鳴らしながら言う。
「お前だけはよ、許せねぇんだ。
シルカを奪い、俺の神の子の座を奪い、親父からは勘当されたよ!!…お前さえ来なければ…、俺は自由気ままに楽しく生きて行く事が出来たんだよ!!ふざけんな!!」
「まだわからないのか?自分の為に人を踏み躙って笑ってる奴なんて、それだけで生きてる価値のない奴なんだよ。
例え力が無かったとしても、グランさんみたいな人の方が、お前なんかより遥かにカッコいいよ。」
リューは、ツカツカとグリフに向かって歩み寄ると、胸倉を掴んで怒鳴った。
「なんで、まず考えないんだよ!?
自分の町に理不尽に兵を差し向けられたらお前はどう思うんだ!?
自分の愛する人を傷付けられたらどうだ!?
自分を庇ってくれた人を傷付けられたらお前はどう思うんだ!?言ってみろ!!」
グリフはリューから顔を背けてボソッと言う。
「…俺はこう生きて来ちまったんだ、今更変えれねぇんだよ。」
リューは真っ直ぐにグリフを見て言い返す。
「じゃあ、お前はそこまでのヒューマンだ、好きなシルカを振り向かせられず、僕にとられただけの男で、それ以上は見込めない、諦めろ。
変わろうとしなければ、周りの人々だって変わってくれないんだぞ。」
グリフはフルフルと震えながら、神剣アーサレスカリヴルヌスを投げ捨てる。
「わかってんだよ!チクショウ!!」
そう言うと、リューの顔面に右フックを叩き込んだ!
リューは鼻血を出しながらニヤっ!と笑うと、そのままグリフの胸倉を引き寄せて、顔面に頭突きをする!
「ぐっ!!…イッテェじゃねぇか…よぉ!!」
グリフがリューの首を両手で掴み、首相撲で腹に膝蹴りを数発入れる!
リューがそれを密着してバランスを崩して脱出すると、グリフの足にローキックを放った!
「ぐぅ!!」
グリフが放った右ストレートをリューが額で受けて、再びローキックをグリフの太腿に打ち込む。
膝の力が、カクっと抜けたグリフの顎にリューが飛び膝蹴りを放つと、グリフはヨロヨロと後退し、そのままバタンと後方に倒れた。
「…イッテェ、お前強過ぎんだよ。」
そう言うグリフは、何故かスッキリした表情をしている。
「今までのお前なら、絶対に剣で切り掛かってきていた。
それなのに剣を捨てて殴って来たのは、グリフ、お前が少しでも変わろうとしている証拠だ。
ヒューマンは何才になったって、変わろうとすれば変われるんだ、「今迄そうだったから」で終わるんじゃない、「今迄そうだったけど、どうしよう?」と悩むんだ。」
シルカとハスキーがバタバタと、店の扉から飛び出して来てリューの元へと駆けつける。
「り、リュー!!鼻血出てるよ!?大丈夫!?」
「ガルル!(この野郎、また懲りずに御主人を狙いやがって!)」
「シルカ、ハスキー、僕は大丈夫だよ。
それよりグランさんの肩の傷が心配だから、店に連れて行って、手当をしてあげてくれるかな?」
「う、うん!わかった!!」
シルカとハスキーが、グランさんを連れて店に戻ると、リューは、仰向けに倒れているグリフに手を差し出す。
「フン…!」
グリフは、その手を払い除けると、自分でムクリと起き上がった。
「悔しいけど、まだ俺じゃリューには敵わないみたいだな、強さも、中身の強さも。
でも、絶対にグリフはスゲーやつだってリューに言わせてやるからな!!覚えておけよ!!…シルカをよろしく頼んだぞ。」
そう言うグリフに、リューは鼻血を垂らしながらニコニコと笑って言う。
「おうっ!!任せとけ!!」
釣り編が書きたいです…笑




