世の情けは尊い
「そういえば、異世界に吹っ飛ばされたー!
…とかなんとか言ってたじゃないですかぁ?
…あれってどういう意味ですかぁ?」
皆木さんは、僕が買った品物を特大の袋に詰めながら言った。
「今日、南伊豆に平鱸釣りに行くって言ってたじゃない?
その時に、あり得ない高さの波に飲まれたんだ…。
…で、気がついたら、切り立った崖に囲まれた磯にいてさ、ステータス画面とか開いちゃうし、なんか謎の魚釣れちゃうし、物凄く困ってるんだよ。」
皆木さんは、キョトンとした顔をしながら言った。
「いや、海上さん、ここにいらっしゃるじゃないですかぁ?
…ははーん、最近見たアニメがそういう異世界転移物で、なりきりしてるんですねぇ?」
…と、言って全く信じてもらえない。
なかなか信じてもらえないのは悲しいが、リューは構わずに続けて話す。
「さっき言ってたここにしか来られないっていうのは、そういう理由でさ、俺を異世界に引き込んだ海神の力だと、俺をこっちの世界に戻す事が出来ないんだってさ。
でも、俺が釣師だから、こっちの世界の一部、さらに言うと、このタックル便利だけ召喚して利用出来るようにしてくれたんだ。」
「またまたぁー!」
と、皆木さんは笑いながら僕を見ている。
「じゃあ、ちょっと今から店の外に出るから見ててくれる?」
と言って、僕はタックル便利のドアを開いた。
タックル便利のドアを開くと、そこはまた例の磯で、再び日本の代表的なアニメのアイテムを使った気分になる。
僕は、そこから一歩磯側へと踏み出して、再びタックル便利に戻った。
「どうだった?」
そうリューが問いかけると、皆木さんは口をパクパクさせながら言った。
「き、消えましたぁ!
店から出る海上さんの姿が…消えましたぁ!」
と、皆木さんは、かなりパニクっている。
「…ね?マジで困ってるんだよ…。」
「ええと…、ホントなんですね?」
皆木さんは、確認をするように僕に問いかけて、僕もコクリと頷いた。
皆木さんは、ちょっと何か考える素振りをして言った。
「…ちょっと待ってて下さいねぇ!」
皆木さんは、店の外にバタバタと出て行き、駐車場の端に停めてある自分の車から、デカいプラケースを持ってきた。
皆木さんは、18歳の乙女とはいえ、釣りに命かけてるので、身体の体躯に合わないゴツいSUVに乗っている。
このタイプのSUVに初心者マークが可愛らしい。
「海上さん、これ…使って下さい!」
皆木さんがくれたゴツいプラケースの中には、小さめバーベキューのコンロ、炭、着火剤、着火用の着火部の長いライター、紙皿、スチロール椀、箸、プラスチックスプーンにプラスチックフォーク、醤油、塩、砂糖、焼肉のタレ等の各種調味料、キッチンペーパー、タオル、あとガスランタンと、変えのガスなんかが入った、所謂バーベキューセットだった。
「えええええ!?
本当に、こんなのもらっちゃって良いの!?」
「あげません、貸すだけですぅ!
しっかり向こうで帰ってくる方法を見つけて、返してくださいねぇ!
この間、友達と川原でバーベキューして、積みっぱなしだったから丁度良かったですぅ。」
皆木さんは、ニッコリ笑ってそう言った。
「ひゃっほぅ!流石皆木さん愛してるぅ!
ちゃんと返しに来るからね!」
リューが、テンション高くそう言うと、皆木さんは、顔を伏せてプルプルしてる。
耳も赤いし、どうしたのかなぁ?
「と、とりあえず、ありがとうね!
大事に使わせてもらうよ。」
「はい!またのご来店をお待ちしておりますぅ!」
皆木さんは、顔を真っ赤にしたまま笑顔でお辞儀をして言った。
リューは、ビッと手を上げると、ゴツいプラケースの上に買った包丁セットと、寝袋の入った大きなビニール袋を乗せて、エッサホイサと、あの磯に戻って行くのだった。
ブックマークも増え、評価もたくさんしていただき、本当にありがとうございます(*^ω^*)
次回からは、まだ幻想の世界にリターンします。