パウスベスティア料理店モナード・レイ
「さーてと、この後はどうしようか?」
リューは、レイウインドの街並みを見渡しながらそう言うと、兵の一人がこちらに来て言った。
「その、グリフ殿の父上様である町長が、あなた方にお会いして謝罪したいそうですが。」
そう言うのだが、いまいちリューは気乗りがしなかった。
「いや、謝罪はいらないです。
我々とフェノールにこれ以上迷惑はかけない様に、今後グリフをしっかりと管理して下さい、もう威光は使えなくなっていますからと、お伝え下さい。」
「へ?」
と、兵は言っているが、リュー達は構わずレイウインドの町を散策しに行った。
…。
夕陽に染まるレイウインドの町の大通りを歩いて行くと、シルカがリューに言った。
「リューって、何か格闘をしてた事があるの?
グリフ戦にしても、お父さんとの勝負内容を聞いたにしても、素人技術ではないわよね?」
それにリューが返答する。
「いや、学生の時に運動部にいたくらいで、実際に格闘を習ったりした事ないよ?
ただ、元の世界で色々な格闘を見たりするのは好きだったから、自分の部屋でアチョー!!ってやってたくらいかな?」
「それなのにあんな強いの?
実践経験があるみたいに強いじゃない?」
シルカが首を傾げながら言う。
「うーん、実践って、友達と可愛いケンカしたりした事は何度かあったけど、それくらいかな?」
「ふーん…。」
シルカは納得してはいなかったようだが、それ以上追求はして来なかった。
「お、あそこでご飯が食べれそうじゃないか?」
リューが指差した先には、デカいモンスターを下から火で炙っているマークがある料理店があって、焼けた肉の香ばしい香りが辺りを包んでいた。
昼はハスキーにほぼ食べられてしまったので、お腹が空いてクラクラしていたリューは、舌舐めずりをしながら言った。
「そうね、そろそろ夕飯時だし、そこでご飯を食べてから宿を探しましょうか!」
「わふっ!(肉!肉!)」
シルカも賛同してくれたので、リューとハスキーは競い合うようにその店に入って行った。
[パウスベスティア料理店モナード・レイ]
この店は、鯨に近い海獣の料理を出す店らしく、海辺の町のレイウインドではポピュラーな食材らしい。
入り口のドアを押して入ると、ドアに掛けられたベルがカラーン!と鳴って、若い男の従業員が此方を向いて言う。
「いらっしゃいませ!!…おっ!さっきグリフの野郎をぶっ飛ばしてた人じゃないか!
いやー、爽快だったよ、ありがとう!」
リューは、町の人の反感こそ買えど、感謝されるとは思ってなかったので、うろたえてしまった。
「え、ええ!?いや、なんかその、ど、どういたしまして?」
「まぁ、そんな所に立ってないで、席に座った座った!!」
その従業員に席に通してもらい、席に着くと、その従業員がにこやかに笑いながら言った。
「俺の名はグラン、この店のマスターの息子だ。
あのグリフの野郎には威光の力でやりたい放題されててさ、食事代は払わないわ、店で暴れたりするわ、本当に頭にきてたんだよ、ありがとな!
今日は、サービスするから、腹一杯パウスベスティア料理を食ってってくれな!」
グリフは、町の人にも嫌われていたようで、グランも清々した顔をしている。
「ありがとうございます!そのパウスベスティアってやつを初めて食べるので、楽しみにしてます!」
「わふっ!(楽しみだね!)」
グランは、ビッ!と、サムズアップすると、店の入り口の所で立って注文待ちをしているようだ。
「シルカはパウスベスティアを食べた事があるの?」
「うーん、一回くらいかなぁ?
昔、レイウインドとフェノールが仲が良かった頃にお父さんと食べた事があるけれど、私もまだ小さかったしあんまり覚えてないのよね。」
「なるほど、食べてみてのお楽しみってことだね!」
リューがメニューを見てみると、パウスベスティアの絵が描いてあり、鯨と海驢を足したような風貌で、こんなやつなのか!と、ワクワクした。
メニューの中から、数点シルカが選んでくれたものをグランに頼むと、威勢のいい声で返事する。
「あいよっ!!ちょっと待っててくれ!!」
と、厨房に駆け込んで行った。
…。
暫くして一番最初に出てきたのは、パウスベスティアとラディッシュの煮込み料理で、ワインの香りが鼻を擽る。
皮に近い部分は、鯨と同じく脂が多いのだろうか?プリプリとしていて、食欲を唆る。
「よしっ!ではいただきます!」
リューは、顔の目の前で手を合わせると、フォークで先ずはラディッシュを口に運ぶ。
「うん!しっかりと味が染みてて柔らかくて美味しい!ワインと、少量のビネガーと、パウスベスティアから溶け出した脂の甘みが絡んで、これは日本の煮物と違う良さがあるな!
さて、次はメインのパウスベスティアの肉を!!」
リューが、パウスベスティアの肉を口に運ぶ。
すると、悶絶しながら言った。
「うぉぉ…!!脂の部分が蕩けてなくなった!
それを隠し味的なビネガーが、クドさを消しているね!!
その脂の下の赤身の部分が、しっかりした食感なのにホロリと崩れていく!
鯨肉も僕は好きだけど、より癖がなくて本当に美味しいね!」
リューが夢中で煮込みを食べていると、二品目が来た。
次の料理は、パウスベスティアの挽肉を使ったボロネーゼである。
リューが煮込みに集中している間に、シルカが先に頂いた。
「いただきます!」
シルカが挽肉を抱き込む様にパスタをフォークに巻きつけて、そっと口に運ぶ。
「うん!こっちも美味しいよ!!
セロリとか、玉葱なんかの野菜とワインの風味で、パウスベスティアの挽肉がより引き立っているね!!
それがこのモッチリとしたパスタに絡んで…!!
美味しいよぉ!」
シルカの顔が、赤みを帯び、ニッコリと笑った顔をより美しくしているのを、リューは見逃さない。
それを見てリューも、嬉しい気持ちになってニコニコとしている。
そうしていると、直ぐに三品目が来た。
次はパウスベスティアのガーリックレモンステーキである。
「わふ!(に、肉だ!デカい!御主人、とってとって!)」
「はいはい!」
ハスキーに催促されたので、リューが取り分けてあげる。
「わふっ!(いただきますっ!)」
早速、ハスキーが齧り付く。
「わっふ!(こりゃたまらん!いくらでも食える!)」
ハスキーは幸せそうな顔をしてパウスベスティアのステーキに齧り付いているのをリューとシルカはニコニコと見ている。
すると、グランがサービスのドリンクを持ってきてくれた。
「ほら!こいつはサービスだ!
爽やかな飲み口だから、飲みやすいぞ!!」
それをリューが口に運んでみる。
「お!柑橘の強めな香りに、程よい苦味と甘味のドリンクだね?
うん、飲みやすくていいよ!」
「だろう?これに使っているレイジェリンの実は、アルコールを感じさせないくらい強い爽やかな香りがするんだぜ?」
「へ?アルコール?」
それを聞いたリューは、段々と視界が回ってきてバッタリと机に突っ伏してしまった。
パウスベスティアのネーミングの由来。
パウスが、インドネシア語で鯨の意味。
ベスティアがスペイン語で獣の意味で、それを合体させたものです。
鯨と海驢をイメージして作ったモンスターなので、鯨と海獣でこの名前になりました。




