風抜けの洞窟の地底湖[あなたの地底湖のタックル便利]
風抜けの洞窟内に踏み込むと、微妙に湿った冷たい空気が吹き抜けている。
「ほら、石があるから、足元に気をつけて…。」
「う、うん。」
リューは、シルカの手を取り、[灯火]の薄暗い明かりを頼りに進んで行く。
時折りコウモリのけたたましい鳴き声が洞窟内に響き渡っていた。
今の所、ハスキーの匂い探知にもモンスター反応はなく、リュー達は慎重に洞窟内を進んで行った。
「確かに、ここでいきなり奇襲されたら、レイウインド側が、なす術なく敗走するのもわかるな…。」
リューはシリウスさん達が対峙したレイウインド側の事を少しだけ可哀想に思ったが、やらなきゃフェノールの町にレイウインドが攻め込んだんだよな…。
…と、思考を振り払った。
しばらく道なりに洞窟内を進むと、フェノールの人が書いたのか、レイウインドの人間が書いたのかはわからないが、立看板があり、レイウインド方面への方向を指し示してくれている。
その看板から少し進むと、気温が一気に下がっていき、何やら明るい場所が見えてきた。
「シルカ、あれはなんだろう?」
「風抜けの洞窟の地底湖ね、どこからかわからないんだけど、光が入り込んで湖が光るのよ。」
イタリアのカプリ島にある青の洞窟のように幻想的に光っている湖だが、青の洞窟とは違い、光源がどこなのかは全くわからない。
水中を光が乱反射して光っているのか、異世界的に妖精が光らせているのかもしれない。
明るいので、その地底湖の淵で、一旦休憩する事にしたリューは、その幻想的な湖を眺めていると、魚影が見える事に気付いた。
「ねぇ…シルカ、そこの地底湖に魚がいるっぽいんだけどさ…。
その…釣り…してもいいかな?」
このタイミングで釣りなんてするのは、馬鹿馬鹿しいのはわかってるんだ、シルカが許してくれないかなー?と思っていると。
「私も釣りしたい!」
と、やたら乗り気である。
我ながら理解のある、釣り好きな良い嫁をもらったもんだ!
とりあえず、どんな魚がいるのかわからないので、シルカがルアーを投げて、リューはシルカの延べ竿で餌釣りをしてみる事にした。
餌に干し肉を水でふやかした物を付けて投げてみると、アタリはあるのだが、どうにも魚がかからなかった。
「針がデカすぎるのかもしれないな…。
ねぇ、シルカ、ちょっとタックル便利に行って、魚のサイズに合った針と仕掛けを買ってくるよ!」
そう言うと、リューは、タックル便利への扉を召喚して、扉に入っていった。
「いらっしゃいませぇー!」
本日の店員さんも皆木さんである。
皆木さんは、リューに気がつくと、小走りで駆け寄ってきた。
「海上さん!どうですかぁ?向こうでもしっかり生活できてますかぁ?」
相変わらずな、のほほんとした口調で皆木さんは聞いてくる。
「うん、なんとかなっているよ!
皆木さんに借りたバーベキューセットめっちゃ役立ってるし、本当ありがとうね!」
えへへ、と皆木さんが照れ笑いをしている。
「今日はシルカさんはどうしたんですかぁ?」
と、聞いてきたので、今、地底湖にいる事と、そこでシルカは集中して釣りしている事を話した。
「今日は、川で使うようなエサ釣りの仕掛けと、ミミズを買いに来たんだ。」
「あー、簡単な初心者セットとかありますけど、どうですかぁ?」
それは、3.5mくらいの安物の柔らかい延べ竿に、仕掛け三つが付いたお得セットで、値段もまさかの1298円!
確かに今のシルカの延べ竿じゃ硬いしなぁ…。
…と、リューは、それを購入する事にする。
餌のミミズも合わせても1898円で、ゴブリンを貨幣交換した分で、と思ってた予算で足りた。
「ありがとうございますぅ!
まさか、海上さんが、川の仕掛け買うなんて思いませんでしたけどね。」
「まぁ、異世界だから、なんでも釣ってやろうと思ってね!
じゃ、皆木さんありがとうね!」
と、店を出ようとすると、皆木さんが呼び止めて来た。
「海上さん!これなんですけど、買いすぎちゃったんで使って下さい!」
と、ダンボールケースのまんまの醤油やら、ダンボールケースのまんまのお酢やらの調味料、合計6ケースを、ドン!と大量にリューに渡してきた。
「え?…買い過ぎちゃってって、ええ?…これ全部!?」
「買、い、過、ぎ、ち、ゃ、っ、た、ん、で、す、ぅ!」
と、ありがたくも無理矢理押し付けられた。
「あ、ありがとう!こっちも助かるよ!」
「いえいえー、こちらもありがとうございましたぁ!」
と、皆木さんに見送られた。
シルカと結婚した事は、いつ皆木さんにブッコむのだろう…。




