旅立ちの日のフェノールの優しさ
「本当に南から回ってリジュワルドを巡るのか!?」
シリウスが強い語気でシルカに言う。
「ええ、これから冬になるのに、北回りでリジュワルドを巡るよりも合理的でしょう?
どちらにせよ、いつかは通らないとならない場所だから。」
「う、うむ…。」
どうやら、シルカの言い分にシリウスが負けてしまったようだ。
リューは、何を話しているか分からずにただ聞いている。
「ええと、どう言う内容の話しなんですか?
南から回っていくと、何か不都合があるんですかね?」
リューが聞くと、シリウスはその理由を話し始めた。
「ここから南西の方にある海沿いの町[レイウインド]なんだがな、数ヶ月程前に、このフェノールに侵攻してきているのだよ。」
「えっ…、ええ!?だって同じエルノーラ帝国所属の町同士ですよね?」
リューは思わずビックリしたが、そう言えば、シルカが先の戦とか言っていたのを思い出した。
「あぁ、そこの町長の息子が、[戦いの神アーサレスの子]でな、ずっとシルカにアプローチし続けていたんだ。
シルカが断ったと同時に力尽くでシルカを手に入れようと、ただそれだけの目的の為に侵攻してきたのだ。
いち早くその動きを察知した私達は、フェノールに辿り着く前のダンジョン、[風抜けの洞窟]でレイウインドの連中を奇襲して敗走させたのだ。」
「そんな事が…。」
「うむ、そんな事があっても同じ国だからな、別に行ってはいけないという事ではないんだが…。
勿論、危険は伴うし、シルカを狙うやつもいるかもしれんし…な。」
「北回りでも、エルノーラ大陸を一周して、フェノールに辿り着くにはレイウインドを通らないといけないし、どっちにしても早いか遅いかってだけでしょ?なら、因縁は、最初に断っておいた方がいいわ!」
シルカは強気でそう言う。
「うむ、またフェノールに攻撃しようとしてくるかもしれんし…な…。
バシッと、シルカが断って堂々とレイウインドを通過した方がいいかもしれん。
危険が伴うかも知れんが…、リュー君はそれで良いかね?」
そうシリウスが聞いてくるが、リューの答えは最初から決まっていた。
「僕は、シルカの判断に乗ります。
シルカが僕を信用してくれるのと同じで、僕もシルカを信用していますから!」
リューは、シルカの眼を見て頷く。
「わふっ!?(おいらの事は!?)」
「あはは!ハスキーの食い意地以外の所は信用してるぞ?」
そう言うと、三人は笑って場が和んだ。
「うん、分かった!もう私は何も言わない!
シルカと、リュー君の好きなように旅をしなさい。」
シリウスが折れて、これからの予定が決まった。
シルカの家を出ると、まだ早朝だというのに、多くの町人が集まってくれていた。
中にはこれを持っていくと良いと、様々な食料や調味料、飲み水の入った革袋などをくれたりした。
そんな優しい人々に、リューは、また涙腺が崩壊しそうになる。
「本当に…、ありがとうございます…。」
リューとシルカは、集まってくれた人々に頭を下げて回る。
リューは、貰った大事な物をマジックタックルボックスにしまい、一呼吸おくと、顔を上げて言った。
「では!いってきます!」
リューとシルカ、ハスキーが町の入り口の門の方へ歩いていくと、水浴場のオッチャンがリューを呼び止めながらこっちに走ってきた。
「リュー、すまねぇ、遅くなった!
これを渡したくて納屋を探していてな。」
オッチャンが、刃渡り60cm程の綺麗な装飾の施されたショートソードをリューに手渡す。
「これは?」
「このショートソードは[ラープシュグラディウス]。
太陽の神ラープシュ様の加護を受けたグラディウスって話しだ。
俺の家に代々伝わる宝剣だ、リューに使ってほしい。」
「そ、そんな大事なもの受け取れ…。」
と、言いかけた所でオッチャンが言う。
「良いんだ!おまえは、俺が認めた漢なんだからよ!」
そう言うと、ニッカリと笑った。
涙を我慢していたリューだったが、我慢しきれず、オッチャンに抱きついて、遂に泣いてしまった。
「またな!」
オッチャンは、そう言うと笑顔で水浴場の方へ走っていった。
「…シルカ、何だよこの町、めっちゃ良い人ばっかりだよ…。」
「…だよね。」
そう言うと、リュー、シルカ、ハスキーは、町の外に歩きだした。
水浴場の隅っこで、オッチャンは、誰にも見つからないように泣いていた。
第二章はここで終わりになります!
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