是が非でも
二人は、試合の開始線に立つと、思い思いのストレッチをしてからお互いを見据えた。
「良いか?私は、持久力で時間を稼いで弱らせよう…、とか思っても何とかなる相手じゃないからな。
最初から全力で来ないと私は倒せないぞ?」
「…はい。」
シリウスさんは、リューにアドバイスをする。
しかし、気迫を見るに、手加減する気は更々無いようだ。
先程、シリウスがいたレフェリーゾーンに、先程戦ったオッチャンが立って、手を上に挙げた。
二人の視線が交錯する。
その時、リューが奇妙な構えをとった。
「な、なんだその構えは?」
シリウスも見た事が無かった構えなのか、少々汗をかいて警戒した。
リューは、相撲の立会いのポーズをとっている。
シリウスのアドバイス通り、最初から全力で行く気である。
そして、オッチャンの手が下がったと同時に、リューはフェノールボアの肉を食べた時に習得したハードタックルを発動しながらシリウスさんに低姿勢で身体をぶちかました!
浴室内にドパァン!という、身体と身体がぶつかり合う音が響く!
「うぉぉぉぉぉお!?」
シリウスが前傾姿勢でリューを受け止めながら後方にズルズルと滑っていく。
「この膂力!!あの体勢からの体当たりがこれほどとは!?リュー君!素晴らしいぞ!
…だが、壁まで押し切れる程じゃ無かったようだな?」
その言葉通りに徐々に減速し、壁まで1m程の距離で完全に止まってしまった。
「くっ!」
少しだけ足りなかった!…と、リューは次の一手に思考を回すが、どんなに力を入れようと、シリウスさんはビクともしない。
「…勝負あったな?」
その言葉通り、大して力を入れる様子も無いのに、グイグイと中央まで押し返されてしまった。
リューも体勢を変えたりして手を打つが、状況は何も変わらなかった。
「これ以上手がないのなら…、これで終わりにするか…。」
シリウスさんが、リューの左手を掴み、グリっと捻りながら投げの体勢をとる。
リューは腕を捻り上げられて、体勢を崩し、身体が流れてしまった。
ああ、もうダメだ、…シルカ…ごめんな…。
…と、リューは諦めそうになったが、崖の下での二日間をリューは走馬灯の様に思い出す。
(…その側に…、君がずっと居てくれたなら…。)
あの時の情景と、微笑んだシルカの優しそうな顔が頭に焼き付いて、僕に倒れる事を許してくれない。
「終わりだ!」
後はシリウスさんの放った捻り投げで回転しつつ床に叩きつけられて終わり…。
…の筈だった。
「うぉぉぉぉぉシルカぁああ!」
リューは回転させられながら身体を入れ込み、シリウスさんの左膝を踏み台にして上へ跳んだ!
浴室の天井を蹴り、シリウスさんの背後に着地、直ぐ様、背後からの片足タックルでシリウスさんを倒そうとするが、シリウスさんも片足で踏ん張り、リューに片足を抱えられたまま、フラフラと、よろけている。
「す、凄いぞ!リュー君、私がこの町でここまで追い詰められた事は今まで無かったぞ!」
「まだだぁぁぁ!」
リューは、抱えているシリウスさんの脚に腕を絡めて巻き込み、バランスを崩しているシリウスさんに、ドラゴンスクリュー(※1)を放って、捻りこみながらシリウスさんを地面に叩きつけた!
シルカの笑顔を思い浮かべて、リューが、うぉぉぉぉぉ勝ったぁぁぁ!と雄叫びを上げる!
その時、無慈悲にもレフェリーのオッチャンが言う。
「勝者、シリウス!」
※1ドラゴンスクリュー
プロレス技で相手の片足を抱え挙げ、捻るようにして投げ飛ばす。




