本気になりそうなタイミング
会心のペンデュラムキャストを放ち、リュー達にドヤ顔をしながら喜びはしゃいでいるシルカ。
その間に、テキサスリグは、フリーフォール(※1)
で、ゆっくり海底へと沈んでいく。
バレットシンカーは、中通し式のオモリなので、重い分、リーダーラインの竿側に数mほど移動し、エビの形をしたルアーより先に着底する。
先に着底したオモリの重さを失ったルアーは、針と、ルアー自重で、ユラユラと海底に向かって沈下していく。
そう、まるで驚いて飛び上がったエビが、再び海底に沈んでくるように…。
それを見ていた一匹のヘイルボルグがいた。
体長は、リューが釣ったものよりも大きいもので、長年生きているだけあって頭が良いのか、慎重なのかはわからないが、沈んでくるエビを注意深く観察している。
シルカは、もう一度投げてみようかな!と、グルグルと、リールのハンドルを巻きだした。
それによってルアーに力が加わって、フワッっと海底から浮き上がった。
…フワフワと落ちてきて、狙っていたエビが、再び逃げるようなアクションを図らずとも起こしたのだ。
逃げられてなるものか!!と、ヘイルボルグは、堪らずルアーに食らいついた!
ガッツン!と、シルカの持っている釣竿ハードロッキンの竿先に魚の生命反応が伝わる。
その様子を見ていたリューが叫ぶ!
「シルカっ!竿を思いっきり上に上げろっ!」
え?…と、シルカが思った次の瞬間、竿先を思いっきり海中に引き込もうとせんばかりの力がシルカにかかった。
「きゃっ!な、なに!?」
「根魚系の当たりだっ!ヘイルボルグかも知れない!竿を上げてリールを目一杯巻くんだっ!」
「う、うん!
ん…んん?あれ?巻けなくなっちゃったよ?」
リューのアドバイスに、シルカが反応したのが、やや遅かったらしく、ヘイルボルグは、海底の岩の隙間へ潜り込み、エラを目一杯広げて岩に引っ掛けて抵抗している。
「あちゃー、根に潜られちゃったか…。
こういう場合は、糸を張らず緩めずで、少し待ってみよう。
こちらから引っ張らなければ、根魚は、チャンスと見て、より遠くに逃げようとして、根から飛び出してくる場合があるからね。」
「うん!分かった!」
シルカは、リューのアドバイス通りに、糸のテンションを張らず緩めずに待つ。
生半可な集中力の持ち主だと、たまに引っ張ったりしてみたくなるのだが、シルカはリューを信用しているのだろう、竿先にのみ集中し、ただ流れていく時間を待った。
「…魚が出てきたら、竿先に反応がある…。
そしたら、竿を立てて、目一杯リールを巻くんだ、いいね?」
「うん…!」
「わふ…(シルカの姉ちゃん、頑張れ…。)。」
海底のヘイルボルグは口に掛かっている釣り針が引っ張られない事に少し安心したのか、エラを引っ込め、より沖合にある根に向かって突っ走り始めた!
ガガガガガッ!と、再び竿先が絞り込まれる!
「今っ!」
シルカは、ガッ!と愛竿ハードロッキンを立てて、魚をこちらに向かせて根に潜られる暇を与えずに、リールを力の続く限り巻き取り出した!
ヘイルボルグは、未だ、潜り込めそうな岩場を見つけては、そこへ突っ込んで行こうとするが、シルカはロッドを高い位置でキープしてリールを巻いているので、抵抗が強く、徐々にヘイルボルグは疲弊していき、遂に海面に浮き上がった!
「!…よしっ、後は、ゆっくりリールを巻いてこちらに寄せてこよう!」
「はぁ…はぁ…、う、うん!」
シルカもかなり疲れているが、どうやらこの勝負は、シルカに軍配が上がったようだ。
シルカが、ゆっくりと、磯の低い場所に誘導していき、リューがフィッシュグリップを掛ける。
「で、でかい!昨日、僕が釣ったヘイルボルグよりふた回り近く大きいよ!やったな!シルカ!」
「わっふ!わっふ!(やったな!シルカの姉ちゃんスゲーや!)]
「〜〜〜〜〜っ!」
シルカは言葉にならないようで、自分の身体を抱いて、唸っていたが、やがて爆発したかの様にリューに抱きついて喜んだ!
「やっっっったぁ〜!!リュー!私やったよぉー!!」
最初はビックリしたリューだったが、生粋の釣師であるリューには、その気持ちが痛い程解る。
シルカの頭をポンポンと優しく撫でつつ耳元で囁いた。
「うん、よく頑張ったな。」
リューは、そんな無邪気に喜ぶシルカに、胸が締めつけられるような感覚に陥って、なんだが嬉しくて息苦しい気持ちになった。
あぁ、僕は…この子の事が…好きになってしまったのだろうな…。
そう、自覚したのだった。
※1フリーフォール
ラインを張らないで、真っ直ぐ沈める方法。
ラインをリールで巻き取って張りながら沈めると、自分に向けてカーブを描いて沈むテンションフォールとなる。




