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93.作戦会議

 歴史用語では、長い「ナイフの夜」ではなくて、「長いナイフ」の夜らしいですね。英語だとNight of the Long Knivesなので、間違えようがないですが。


 次回は通常通り、10月3日更新予定です。


※2019/10/18 この章のタイトルは四文字熟語っぽくなったので、タイトルを変更しました。

 私は魔法少女ハニーマスタードの衣装に着替え、盗賊ギルド”小さき矢軸(マイクロシャフト)”の会議室で席に着いていた。遅番が終わってからの訪問なので、真夜中とまでは行かないけれど、かなり夜は更けてきている。


 彼らとは知り合って二年ほど経ったけど、つかず離れずが続いている状況だ。もちろん、盗賊ギルドと正義の味方では、本質的に敵と味方の関係だ。でも、彼らがフライブルクの人達のためになる仕事をしている場合に関しては、合法・非合法問わず、是々非々で手伝っている感じだ。

 もちろんたまには、スリとか泥棒とか、彼らが行っているローカルな悪事と遭遇する事もあるけど、そんな時は彼らが自主的に引いてくれる事で、決定的な決別には至っていない。


 部屋にはいつもの面々、ギルドマスターであるクリスのお父さん、ビルさんことリングマスターと、スレイことスラッシュが席に着いている。



              ◇   ◇   ◇



「夜遅くにわざわざ来てくれて、すまんな」

「いいですよー」


 私は右手をぷらぷら振って返事する。まあ、こちらも魔族掃討に時間を取られているので、時間の融通を利かせてくれるのは非常に助かっている。


「時間も遅い事やし、早速本題に移らせて貰うで。――お嬢さんがこないだ描いてくれた、これなんやけどね」


 リングマスターは、以前私が渡した羊皮紙を机の上に置いた。この街の見取り図に、私が想定される要石の場所を書き込んだ物だ。


「どうでした?」

「言える事は、少なくとも、真っ黒って事やね」

「と言う事は、何かありました?」


 私の質問に対して、リングマスターは口の周りで手を組んで表情を隠しながら答えた。


「要石があると思われた建物に何人か潜入させてみたが……だれ一人戻らんかったわ」

「それは……」


 今度はスラッシュが口を開いた。彼は顔を隠してはいないものの、表情は露わにしていない。


「結構な手練れも送り込んだのよ。それでも、ね。ま、間違いなく、例の教団と暗殺者たちが絡んでいるわね」

「……」


 私は、何も言うべきことが思いつかず、眉間にしわを寄せて黙っていた。

 直接依頼したわけではないとはいえ、私が持ち込んだ情報に従って行動した事で、人死にが出たことに関して、やはり忸怩たる思いはある。


「お嬢さんでも、迂闊に近づかんほうがええやろな」

「うーん……」


 リングマスターの言葉に、私は腕を組み、椅子に深く座り直して考え込んだ。確かに、建物内部がよく分からない状況では、いきなり暗殺者に近接戦闘に持ち込まれるとかなりつらい。


「で、侵入云々の前に、設置された要石の排除が難しい理由がもう一つあってな」

「と言うと?」

「その、要石と思われる目撃情報に寄るとやね……」


 リングマスター曰く、高さ1m半くらい、つまり、私の背と同じくらいの高さの大樽くらいの大きさの岩だかなんだかが目撃されているそうだ。そして、四頭立ての荷馬車がゆるゆる運んでいた事から考えると、かなりの重量物である事が予想されるとの事だった。

 確かに、その大きさの岩だとすると、3tから4tくらいあっても全然不思議じゃない。


「その重さが厄介でな。正直、安置されている建物を確保したとしても、持ち出すのは至難の業や。警備を呼ばれる事無く確保し、人に見られる事なく搬出する。――ま、無理な話やわな」

「確かに、人力じゃ難しそうね。でも、私の魔法を使えばもしかしたら……」

「おいおい、この重さやで? 生半可な魔術師じゃ上がらんやろ」


 と言ってから、リングマスターは思い出したかのように苦笑した。


「――おっと、お嬢さんは生半可じゃなかったわな。際限なしなんか?」


 ”浮遊”の魔法は、術者の力量が対象の最大重量と最大高度に関係する。ただ、私が持ち上げた事があるのは、せいぜいベッドくらいまでかな。


「流石にそんな重さの物はやった事はないからね。やってみなくちゃ分かんないかなぁ。あー、でも、仮に要石を荷馬車まで持ち上げる事ができたとしても、その後が難しいか」


 荷馬車の上で浮かせたままだと、馬車の動きに同調しないから、要石が中で暴れ回って荷台に同乗している人が潰されるか、荷台の枠が壊れて外に飛び出してしまうだろう。


「かといって、”浮遊”なしで荷馬車に乗せると……」

「四頭立てでちんたら走る荷馬車なんぞ、目立つわトロいわで捕捉は簡単だわな」

「うーん……」


 と、話しながらも、私はもう一つの解決法について考えにふけっていた。

 そういえば、リチャードさんがいつぞやのマジックショウで使っていた、奇術師(コンジャラー)のシーツ、被せた物を二次元的に変換・格納して重量もなくなってしまうと言う、あれなら、この要石でも格納して簡単に運べるかもしれない。

 でもあれは、生きているものは運べないように安全装置がかかっている。こんな代物だから、”生きている”岩だったとしても不思議はないかなぁ。それに……


「あんなの使ったら、一発でバレちゃうよねぇ……」

「ん? 何か言うたか?」

「あ、いや、何でも無いわ。こちらの話よ」


 思わず漏れた独り言を聞きとがめられ、慌てて誤魔化す私。

 あのシーツはリチャードさん作なので、レア中のレア。使ったが最後、リチャードさん、そして私自身(アニー・フェイ)との関係が疑われるのは間違いない。


「と、なれば、当面は、最後の一個の設置を妨害し続けるしかないかな」

「せやな。ともあれ、黒幕を見つけて始末するまでは、向こうさんの王手を(かわ)して回るしかないわなぁ」


 私とリングマスターの諦めの色が濃くなった所で、スラッシュが口を開いた。


「監視の目は広げているから、大型の馬車を見かけたら報告が入るようにはしているわ。見つかったら、手伝ってくれるのかしら?」

「ま、タイミングが合えば、ね。緊急事態だし」


 スラッシュの提案に、私は肩をすくめて肯定するしかない。

 違法行為ではあるけど、警備部も使えない、公安も役に立たないでは、正義の味方が頑張るしかないわけだ。



              ◇   ◇   ◇



 その時、会議室の扉がノックされ、「よろしいでしょうか?」と声を掛けられた。


「ええで、入って来ぃ」

「失礼します」


 扉を開けて、一人の若い男性が入ってきた。そして、リングマスターに耳打ちする。


「なるほど。構わんから、全員に報告してや」


 彼の言葉を聞いて頷いたリングマスターの指示に従い、男性は私たちに向かって報告を始めた。


「動きがありました。港付近の倉庫から、重量物を積んだ四頭立ての馬車が移動を開始しています。その行き先は、最後の要石設置点と推測されます」


 その報告に応えて、リングマスターは私に向かってニヤリと笑みを浮かべながら口を開いた。


「と、言うことや。こんな夜更けにまっとうな荷物が運ばれる訳はないわな――いよいよ王手と言う事や。これは詰ませる訳にはいかんで?」

「そうね……それで、どうするつもり?」


 リングマスターの言に、私も頷いて同意を示す。


「さっき言うた通り、設置されてしもたら厄介やからな。とりあえず荷馬車を強奪するしかないわ」

「その後は?」

「当然、今の時間は城門は閉まっとるし、開いてても突破なんぞできんから、遅かろうが何だろうが、なんとか追撃を振り切って、うちの隠し倉庫に運び込むしかないわな」


 そこまで聞いて、私は椅子から立ち上がった。


「やりたい事は分かったわ。接触予想地点だけ教えて。そこから支援するから」

「ああ、済まんな」


 頭を下げるリングマスターに対して、私は歩きながら軽く肩をすくめた。


「毎回言っているような気もするけど……今回ばかりは仕方ないわ。でも、直接的には手伝わないからね。暗殺者が出てきたら援護はするけど、警備隊や一般市民には手を出さないから」

「ああ、充分や。――せやな、港からこのあたりへの移動を考えると……ここで頼む。もし、外れたようやったら連絡員を出すわ」


 地図の一点を指さしたリングマスターに向かって、私は軽く頷いた。そして、会議室の扉を開けて出て行こうとした所で、一つ聞きたい事を思い出した。立ち止まってスラッシュの方を振り向き、何気ない口調で質問する。


「あ、そうだ。襲撃の時、荷馬車を中心に、そうね……この部屋くらいの広さが無音になったら、便利?」


 唐突な質問に、一瞬、驚いた表情を見せるスラッシュ。


「え、ええ、そうね。助けを呼ばれたりしない分、助かるわ。――そんな事、できるの?」

「ま、それは見てのお楽しみに、ね」


 スラッシュの問いに、私は笑みを浮かべて答え、廊下に出て行ったのだった。

 次回予告。


 またしても、盗賊ギルドの面々と共同作戦を張る事になったハニーマスタード。秘密の新技によって、問題なく荷馬車を押さえる事ができたと思ったのも、つかの間……


 次回「馬車強盗」お楽しみに!

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